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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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開かれた扉

 シェリルとアンドロマリウスが泉に足を入れたが、何も起きなかった。シェリルが彼を見上げると、アンドロマリウスはあからさまに顔を背けた。

「結界纏ってりゃ、そんなんだろーよ!」

 後ろでアンドレアルフスが吹き出し、笑いながら声をかける。シェリルが振り向くと、面白くて仕方ないといった顔をしているアンドレアルフスがいた。


「シェリル、あんたが召還術使うときに結界はしないだろ?」

「――しないわね……

 あっ」

 返事をした彼女は、声を上げる。そう、シェリルは召還術を使うとき、結界をした事がないのだ。結界を身に纏うという事は、端的に脅威から身を守ろうとしている、という事である。


 召喚術とは、器として成り立つか、魔力が充分であるか、この二つが必須であるが、信頼関係も召喚される側にとっては重要である。召喚術を行使した相手を助ける為に能力を使うのである。信用できない相手の為に何かを成すなど、誰だってしたくないものだ。

 それゆえ、何者かを召還する時、召還者は無防備でなければならない。

 ただ、召還術を使うときは、召還術だけを使う。師を持たず、能力の高さ故に召喚術士となった彼女にとって、自然な事で“どうしてか”と気にした事はなかったのだ。


「簡単に言えば、そういうこった」

 シェリルが一人泉から上がると、ヒマトを預かってくれているリリアンヌの方へすたすたと歩き出した。

「マリウス、分かってたの?」

「――まあな。

 だが、安全な手段で開くのであれば、それを試した方が良いと思ったんだ」


 シェリルの言葉に、彼はしれっと答えた。アンドロマリウスの返事には反応せず、リリアンヌの目の前で一枚の符を取り出す。そしてリリアンヌの足下に置かれた水瓶の一つに符を入れる。

「次は何もしないで入るから、それなりに守ってね」

 符が沈んでいくのを見守り、残った水瓶へと手を伸ばした。水瓶の底に沈んだ符は、ゆらゆらとたゆたいながら光り始めた。


「リリアンヌ、クア、この水瓶より泉側には行っちゃだめだからね。

 これからこの水瓶が、水気を纏った結界になるから」

 何もしていない水瓶を持ち上げ、泉へと向かう。アンドレアルフスと結界の間にそれを置いた。その水瓶にも同じように符を入れる。

「アンドレ。ここを、水気を纏った空間にして、ディサレシアの動きを制限させる術式の核をここに置くわ。

 壊されないように気を付けながら戦ってね」

「はいよ」


 彼女が泉に戻るとアンドロマリウスが泉から上がって待っていた。

「マリウス、結界とかいろいろやるの忘れてたからちょうど良かったわ。

 さ、今度こそ開きましょ」

 だめだと考えていたのにあえて試した事を気にしていない様子に、アンドロマリウスは少し肩の力を抜く。質問に答えてからすぐに返事がなかった為、緊張していたらしい。


「守るが、気を抜くなよ」

「分かってるわ」


 二人は正面の泉を見据え、一歩踏み入れる。泉に二人を中心にした波紋が広がっていった。結界を纏わぬシェリルに反応したらしい泉が光り出す。

 先ほど開いた時とは違い、今度は泉全体が光っている。先ほどとは比較にならないほどの光に、シェリルは思わず目をつむった。


 目を細め、光の中を見続けるアンドロマリウスは、一瞬自分の目を疑った。光の洪水の中、ディサレシアがどんどん沸き出してくるのが見えたのである。

 二十匹ほどのディサレシアが、獲物を見つけ巨大化する。巨大化した蜂は泉に収まりきれなくなり、あちこちを飛び始めた。


 アンドロマリウスは目を閉じたままのシェリルを咄嗟に抱き上げる。彼女は小さく息をひゅっと吸い込み、驚きを示していたがすぐに首へと両腕を回してしがみついてきた。彼はアンドレアルフスの隣まで移動し彼女を降ろす。


「大技で一気に片づけた方が楽そうだっ」

 そう言ったアンドレアルフスは、しっかりと剣を握りしめ横凪ぎに一閃した。勢いよく、大きな鎌鼬がディサレシアを襲う。

 だが、それに巻き込まれて死んだ蜂の代わりにほぼ同数の蜂が現れた。

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