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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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泉の扉の開き方

 顔を歪ませていた彼女を二人の悪魔が見つめていた。二人の視線に気付いた彼女が、はっとした様子で彼らを交互に見やる。

「別に……あなた達が万能だとか、そういう風には思ってないわ。

 ただ、気になっただけなのよ。

 責めてるわけでも、馬鹿にしてるわけでもないから」

 問われているわけではないが、シェリルはこの表情について勝手に説明し始めた。話す内にどんどん早口になるシェリルに、アンドレアルフスは笑う。


 少しずつ後ずさりながら泉へと近付いていく彼女をアンドロマリウスはじっと、何も言わずに見ていた。

「あ、でも何かの原因があるわけじゃないなら、今ここにいるからってすぐ開くわけじゃ――」

 そう言う彼女の背後が光で溢れる。何事かと咄嗟に振り向こうとしたシェリルをアンドロマリウスが抱き抱え、一足飛びに泉から離れる。いつの間に顕現させたのか、彼女を守るように漆黒の翼を広げていた。


「ほいっと」


 ディサレシアが一匹、泉の中心からこちらに向かってくる所だった。アンドレアルフスが軽い声掛けをしながら剣を振った。剣から生まれた魔力の風が蜂の胴体を真っ二つにする。

 二つに分かれた蜂は、そのまま泉に向かって落ちていく。しかし、水面に触れる事なく二つのは塊は消え去った。消える瞬間、泉が光っていた。元の世界に戻ったのだろう。

 シェリルはアンドロマリウスに抱えられたまま、彼の翼越しにその様子を見ていた。きょとんとしている彼女に、アンドロマリウスが告げる。

「案外すぐに開いたな」

「そ、そうね。

 私、間が良すぎたかしら」


 リリアンヌが早足で二人の元にやってきた。その足下にはクアもいる。

「今の何なの?

 シェリルの感情に反応したとか?

 それとも魔力?」

 矢継ぎ早に質問する彼女に、アンドロマリウスの腕の中からすり抜けたシェリルが答える。

「感情ではないと思うわよ。

 悪魔のアンドレが泉に足を突っ込んでも何ともなかったじゃない」

 その言葉にちらりとリリアンヌがアンドレアルフスに視線を向ける。彼は手を振って視線に応えると、シェリルの言葉を補足するように話し出した。

「多分、シェリルの召還術士の力に反応したんだ。

 昨晩何ともなかったのは、月光が泉を封じてたんだろうよ」


 彼はまた泉へと近づき、足を水に浸した。だが、何も起きない。蜂が出てくる事も、泉が輝く事もなかった。

「ほらな?

 ただ魔力に反応している訳じゃねーんだ」

 ばしゃばしゃと音を立てて泉の水を濁す。ゆらゆらと揺れる水面は、太陽の光を浴びてきらきらと光をまき散らした。

「この泉の扉を開けっ放しにするのは、ある意味簡単ね」

 シェリルがヒマトを脱いだ。これが水を吸うと、重く、動きにくくなる。どうやら彼女は泉に入って、扉を開けるつもりのようである。


「待て」


 彼女の肩を押さえるように、アンドロマリウスの手が置かれる。シェリルが嫌そうな顔をしたのを見ると、彼はぱっと手を離した。

「やるなとは言わない。

 だが、念の為に結界を張ってから入ってくれ」

 嫌そうな顔をやめ、シェリルは一枚の符を取り出して力を込めた。術の発動を確認する為か、アンドロマリウスが無造作に手を伸ばす。シェリルに触れる直前、彼の手の周辺に小さな青い稲妻が走った。さっと手を引いて、それを見つめる。

 見事、彼の手は焼け爛れていた。


「ふむ。

 大丈夫そうだな」

 満足そうに頷くと、シェリルの隣に立つ。彼とは真逆に、シェリルは彼の手を睨み付けている。眉は上がり、眉間にしわが寄っていた。

 アンドロマリウスはそんな彼女の視線を受けながらひらひらと数回爛れた手を振ってから息を吹きかける。赤黒く爛れた皮膚が小さな風でさらさらと砂のように舞っていった。爛れていた皮膚の下は既に修復が終わっており、何事もなかったかのようだ。


 元通りになった手をシェリルの結界に触れない程度にかざす。きれいに治ったと言外に主張され、彼女はばつが悪そうに彼の手から目を反らした。

「問題ない」

「……行くわよ」

 追い打ちをかけるように言葉を発する彼をシェリルは無視し、号令をかける。そうして二人は同時に泉へと一歩踏み入れたのだった。

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