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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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悪魔の能力が使えなかった理由

「あれ? ここは――……」

 羽虫が連れてきたのは、シェリルとアンドロマリウスがクアを探しにやってきた泉だった。つい明け方までいたばかりだという場所に案内されたシェリルは戸惑いの声を上げる。

 そんな彼女の隣でアンドロマリウスが呟いた。


「そうか。だからこの俺でもよく分からなかったのか――」


 彼を見上げ、おずおずとリリアンヌが問いかける。

「誰かが仕組んだ訳じゃないって事?」

 すぐ側に蜂が現れてもおかしくない場所という認識しかない彼女は、泉の美しさなど気が付いた様子もない。正直に緊張し、少し怯えているだけである。

 辺りは今、不穏なものを感じさせてはいない。ただ、木々が風に揺られてさわさわと音を立て、たまに水面が揺れる――そんなどこにでもあるような風景が広がっていた。


「違うよ、リリアンヌ」

 力が入りっぱなしの彼女の肩をアンドレアルフスが軽く揉む。ひゃあと小さな悲鳴を上げてリリアンヌの膝が砕けた。

「この美しい風景がどんな意味を持ってるか、どんな力を持ってるか、普通の人間には分かんねーだろうし、仕方ない」

 アンドレアルフスは倒れそうになった彼女を座らせ、自らは泉の方へ身体を向ける。仰々しく手を広げた彼は、ゆっくりと振り返った。


 太陽の光を反射させた泉を背後にするアンドレアルフスは、神のような神々しさがあった。キラキラと細やかな光の破片を纏う、黄金の髪。煌びやかな趣の顔立ちがやや逆光になる事で浮かび上がる。

 シェリル自身、彼に施した術が切れてしまったのかと思う程の存在感を醸し出している。リリアンヌに至っては、座ったまま惚けてしまっていた。


「この美しい泉は、月の光と太陽の光を受け続けて魔力の泉になっちまったんだ。

 まあ、元々ここの水自体も素質があるようだがな」


 そう言うと、アンドレアルフスはさっさと泉へと向かっていった。彼が背を向けた途端に先程までの雰囲気は霧散する。いつの間にこわばっていたのだろうか。シェリルは息を吐きながら肩の力を抜いた。

 彼はここへの道中にあった川の水で満たしていた水瓶を逆さにし、水を捨てながら泉へと近付いていく。

「こういう魔力を帯びた泉は、異世界同士をつなぐ道具にぴったりだ。

 まあ、たまたま繋がっちまったんだろう。向こうと」

 空になった水瓶を泉の水で満たし、一口だけ口に含んだ。途端、アンドレアルフスはぺっと水を吐きだした。


「すげぇ味っ!

 あー……で、あれだ。

 これに気付いた何者かが、ディサレシアをこの泉と繋がってる場所に誘導したんだな」


 アンドレアルフスの様子に興味を示したシェリルが水瓶に指を入れて一舐めする。しかし、人間と悪魔では感覚が違うのか、何も感じなかったようだ。彼女は首を捻って不満そうに顔をしかめる。

「じゃあ、自然にできたものをちょっと利用してるだけだから、ディサレシアを謀略の一端としては探せないって事?

 マリウスが得意な簡単な気配探しとかでも分からない理由も、それ?」


 今度はアンドロマリウスが答えた。

「謀略としては、目的が不透明すぎて探せない。

 ディサレシアを誘導しただけであって、何も成していないからな」

 シェリルがわざわざ羽虫を創り出すようなものを作ったのは、そもそもアンドロマリウスの一言があったからだ。

 夕食後、部屋へ戻る途中、アンドロマリウスはシェリルの耳元で「俺はディサレシアを探す事はできない」と囁いたのだ。だからシェリルは仕方なく、結界に追尾の術を施す事で解決したのである。


「俺はただの捜し物ならできるが、捜し者の対象が俺たちと同等以上ならば難しくなってくる。

 だから、今回の事は俺に不向きだった」

 淡々と語る彼は、不本意だという雰囲気を醸し出す。便利な能力は、それなりに条件が揃わないといけないようだ。

 そんなアンドロマリウスの肩に腕を乗せ、アンドレアルフスが笑いながら口を開く。

「この“アンドロマリウス”の能力は、使い勝手の良い方なんだが、向き不向きがあるんだよなー。

 俺の“アンドレアルフス”の能力の美しすぎるって能力なんて、使い勝手悪すぎてさ。

 どうしてこっちだけ手元に残しちゃったんだろうってたまに思うくらいだぜ」

 シェリルは彼の言葉に顔を歪ませる。どうやら、悪魔の核を持っていた事のある者にしか分からない、特別は悩みのようであった。

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