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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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一族の為、家族の為

 シェリルがアンドロマリウスと合流したのは、彼女が準備を終える前だった。ちょうど水瓶を購入しようとしている時である。

「シェリル」

「マリウス、早かったわね」

 振り向かずに答えた彼女は銀貨を渡して水瓶を受け取った。ガラスでできた透明で大きい水瓶を一つ購入したシェリルだったが、アンドロマリウスが現れたところで水瓶をもう一つ頼んだ。

 一つ目の水瓶を彼にさりげなく渡し、彼女は二つ目の水瓶を受け取る。大きな水瓶を抱えた二人は無言のまま宿へと戻っていった。




「お、きたきた」

 シェリルとアンドロマリウスが宿へと戻ってくると、既にアンドレアルフスがいた。リリアンヌと一緒にクアを撫でている。リリアンヌの髪には、シェリルの結界が生み出した羽虫がとまっている。

「シェリル、この虫は何なの?

 アンドレ様に聞いても教えてくれなくて」

 リリアンヌは羽虫を指に乗せて不思議そうに首を傾げた。羽虫自体を嫌がっているわけではないらしい。

 シェリルはほっと胸を下ろした。嫌がられて潰されては堪らない。この虫はとても重要なのだから。


「この羽虫はディサレシアを追う唯一の手がかりなのよ。

 クアはディサレシアがどこからきたのは知らないしね」

「でも、どうして羽虫が?」


 リリアンヌはどのようにして羽虫が生まれたのか知らないらしい。本当に、アンドレアルフスは何も彼女に言っていないのだろう。

「リリアンヌに結界を張って貰ったでしょう?

 あれ、対象を見つけ次第攻撃してくれるんだけど、追尾の機能も持たせているの。

 追尾の機能がその羽虫ね。

 術を発動させたのはあなただから、あなたにくっついてるというわけ」

 シェリルはリリアンヌに大まかな説明をすると背を向けた。

「まあ……見た方が早いわね。

 さ、ディサレシア退治に行きましょう」




 宿を出る四人の後ろにミャクスもいた。それに気が付いたアンドレアルフスが彼女の隣を歩く。前の三人――少なくとも人間二人――には気付かれないように、アンドロマリウスはクアの脳内へ直接話しかけた。


「お前は出なくても構わない。

 家族の元にいてやると良い」

『私はあの人間の家族ではあるが、ミャクスの長だ。

 敵と戦わずに、召還術士と悪魔の力に頼って何もしないわけにはいかない』


 むっすりとした様子で淡々と言葉を紡ぐクアを、アンドロマリウスは鼻で笑う。そして小馬鹿にするように言い放つ。

「ディサレシアの出現場所まで行けば満足か?」

 クアがうなり声を上げてアンドロマリウスを睨むと、彼は小さく笑った。嘲笑ではない。柔らかい笑い声だった。

「お前がそれぞれの家族を大切にする気持ちは分かる。

 だから意地で無駄に傷を負ってはいけない。

 お前は悲しませたいわけではないのだろう?」


『――しかし、一族の長として』


 納得しきれない様子のクアは、横に首を振った。会話をしている内に、街外れに近づいていた。前を歩く三人は一人と一匹の会話に気付くそぶりも見せずに進んでいく。

「戦って死ねと、周りが言うのか?」

『そうではないが……』

 言いよどむ様子に、アンドロマリウスが畳み込んだ。

「一族の数が減った今、統率する者が死んだらまとまらなくなるぞ。

 お前は一族を滅ぼす最後の一手を投じる気か」

 滅ぼすつもりかと問われ、はっとする彼女をアンドロマリウスは撫でた。


「生きていれば、一族を再建させる事も、家族との時間を大切にする事もできる。

 確かに、どうしても死をもって解決するしかない事はある。

 だが、今回は違う。

 今回の件では傷つくな。身体を大切にし、生きる時だ」


 クアはいつの間にか立ち止まっていた。それを待つようにアンドロマリウスも歩みを止めている。少しずつ三人との距離が離れていく。

 アンドロマリウスは声をかけて急かす事も、三人へ待つように声を上げる事もしなかった。


『――……私は、戦わなくとも、長としての責務を果たせるのか』

「無駄死にする事が長としての責務でないならば、な」


 俯いていたミャクスは頭を上げ、正面を見据えた。

『一緒に行く。

 だが、それは我が一族を大虐殺した存在の行く末を見届ける為だ』

 アンドロマリウスはただ頷くと、三人の後を追う。ふと三人を見れば、街を出て羽虫と何かをしている所である。クアも足早に三人の元へと急いだのだった。。

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