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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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単独行動

「で?

 どうしてそんな所に潜んでいたんだ?」

 朝食を終えて部屋へと戻るや否や、アンドレアルフスが口を開いた。先ほどまで食事に熱中していたとは思えないくらい、真面目な雰囲気を醸し出す。

 シェリルはその様子の変化に戸惑うも、彼の質問に答えるべく話し始めたのであった。




――まず、前提として話しておくけど。

 この宿のミャクスは特殊なミャクスだったわ――


 シェリルの話を頭の中で反芻させながら、アンドレアルフスは結界の様子を確認する。力を外に出さなくともできる為、これならば彼の負担にならない。シェリルの指示は、彼が術を使って目立つ事のないよう配慮されていた。

 今確認した結界は、ディサレシアを関知しなかったようだ。その事が分かるやいなや、アンドレアルフスはさっさと立ち上がる。


――あの山のミャクスを取りまとめている個体だったの。

 つまり、群の長ね。

 ああ……彼女、ちゃんと名前もあるのよ?

 「クア」って言うの――


 次の結界の場所へと向かう。日中のこの街は、にぎやかでディサレシアの脅威に脅かされているとは思えない。さすがに旅の要となる街だけはある。

 異常事態が続いているにも関わらず、それを感じさせるそぶりはなかった。彼は人混みの中を真っ直ぐ移動していく。


――クアは、自分の群が危なくなってからこのライザに群ごとやってきた。

 だけど、人間も巻き込まれるようになってきてしまったから責任を感じてたんだって――


 人混みを泳ぐ必要はなかった。周りが勝手に道をあけてくれるのである。こういう時ばかりは、目立つ容姿である事は役に立つ。

 それに、シェリルの術がよく効いているおかげで、必要以上に目立つ心配もない。普段外出時は一緒にいるリリアンヌという枷もない。アンドレアルフスは開放感に酔いしれながら結界の確認を進めていった。


――クアはディサレシアがどんな習性を持っているのか、何となく感づいていたのね。

 それで、一匹で街の外に出て、蜂達の気を引こうとしていた――


 ライザの中で一番山に近い出入り口にやってきた。アンドレアルフスにとって、最後の結界である。彼が符の縁をなぞると、それは炎の幻影を見せた。

 今までの結界は何もなかったが、これが当たりのようである。


――蜂の気を引く所までは予想通りだったみたいなんだけど、対処の仕方を知らないでしょ?

 どうしようもなくて山の中で逃げている時、水を嫌ってる事に気が付いた。

 それで、狙われても安全な泉の中にいたんだって――


 アンドレアルフスが炎の幻影をつつくと、それは小さな羽虫へと姿を変えた。羽虫は逃げる素振りを見せず、むしろ彼の指先へと止まる。

 発動させた術者の元まで返さなければ話が進まない。シェリルが一旦別行動を取ろうと言った意味をやっと理解したアンドレアルフスであった。




「別行動?」

 リリアンヌは首を傾げた。ここまでの道のりで別行動をしたのは昨晩が初めてである。そして今日もまた別行動を取ると言う。

 ディサレシアが危険な存在であるのは分かっている。リリアンヌ自身がこれまでの旅では役に立てていない事も身に染みている。多少はできる方だと自負していただけに、情けない気持ちが強い。


 三人が規格外なのは分かっているが、別行動だと言われ、さらには宿で待機だと指示されれば落ち込みもする。いや、単なる待機ではない。アンドレアルフスが戻ってくるまでクアと一緒にいてほしいと言われたのだ。

「分かったわ」

 微妙な気分になりつつも、普段と変わらぬように気をつけながら頷いた。


 アンドレアルフスは町中の結界を確認しに、アンドレアルフスは一旦泉の様子を見に行き、シェリルは今後の準備をする為にそれぞれ出て行ってしまった。

 三人と別れ、一人になったリリアンヌはシェリルの指示通り、部屋にクアを呼んだ。リリアンヌが沈んでいる様子に感づいたのか、クアがそっと寄り添ってくる。そろそろとミャクスの背へと手を伸ばす。


 ある程度の寒さにも耐えられるように発達した種であるクアは、剛毛気味だったが、つるつるとしていて痛くはない。彼女の背中を撫でながら天井を見上げ、力なく溜息を吐いたのだった。

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