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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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眠れぬ召喚術士

 シェリルは目の前を行く黒い悪魔を見つめ、溜息を吐いた。昨夜、アンドレアルフスから言われた事が気になって眠れなかったのだ。

 別に一晩寝なかっただけで限界を迎えるような体ではない事は分かっているが、こんな事で眠れないとはシェリル自身考えた事はなかった。

 研究や趣味に没頭していたわけでもなく、依頼をこなしていたわけでもない。ただ、ディサレシアという魔界の蜂がこの世界に現れただけである。


 話を途中で切られたからだろうとシェリルは頭を振った。第三者の関わりを示唆された所で、話は終わってしまった。

 特に何かがあったわけではない。単に、アンドレアルフスの気まぐれである。


 今朝シェリルが彼を睨みつければ、アンドレアルフスは爽やかな笑みを浮かべて肩をすくめてみせた。

 これ以上話すつもりはないようだ。この件で話ができそうなのは、アンドロマリウスだったが、シェリルは話題を振る事を躊躇っていた。


「シェリル、お前……さっきから変だ」


 彼女のそわそわとした、どこか落ち着きのない姿は先頭を進むアンドロマリウスも気になったようである。声をかけられた彼女は、はっと息を吸って驚いた様子を見せた。

「そんなに、変?」

「ああ」

 アンドロマリウスはヒポカの速度を落とし、シェリルと並んだ。ちらりとシェリルを見やるが、正しい道のりを見つめた。


 あまり起伏のない草原のような、開けた場所に出る。遠くには山々が見え、その麓には街があるのが分かる。このまま進めば夕方には着きそうだとアンドロマリウスは計算し、ヒポカに指示を出す。

 ヒポカは承知したと言うかのように短く嘶いた。


「そんなに蜂が不安か」

 アンドロマリウスの言葉に、隣を駆ける彼女が揺れた。

「ここでディサレシアが棲息してるとしたら何か恐ろしい事が起きているのかもしれない。

 少なくとも、ここ数日で召喚されたら私が気付くはずだから急な出来事ではないと考えられるし……」

 蜂の話を振られた途端、シェリルがブツブツと話し始める。ずっと頭の中だけで考えを巡らせていたのだろう。どんどん口から思考が漏れていくかのようである。


「こいつらを直接召喚するのは危険よ。

 間接的に召喚するには技術も準備も必要だし、そこまでするなら、ただのいたずらである可能性はほとんどなくなる。

 そもそもこの世界の人間だとしたら、どうやってあれの情報を手に入れたの?」


 アンドロマリウスはシェリルの話を無反応に聞き続ける。

「この世界の人間は全く関係なく、たまたま魔界で邪魔だったからこっちに飛ばした可能性もあるけど……

 普通に考えれば殺して終わりよね。

 違う世界に飛ばす方が面倒だし」

 アンドロマリウスは真剣に考察し、一々口に出しているシェリルの姿に小さな笑みをこぼした。

「お前が色々考えていたのは分かった。

 今日はちゃんと寝ないといけない」

 アンドロマリウスがシェリルの目元へ手を伸ばす。彼女が振り向くと、彼の指先が微かに光る。


「……え?」

「充血していた」

 シェリルがまばたきをする。先程まで赤く充血していた目は、普段通りに戻っていた。

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