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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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憎しみに反応する蜂

「この蜂はディサレシアと呼ばれている。

 その名の通り、憎しみや恨みといった感情を持つ者へ惹かれる習性がある」

 蜂はアンドロマリウスの方にふらふらと寄っていく。二人はその場から動かず、ただその様子を見つめていた。

「ただ近寄ってくるだけならば、別に驚異ではないが――」


 アンドロマリウスと蜂の距離がどんどん近付いていく。近付くにつれ、蜂に変化が現れた。徐々に巨大化し始めたのだ。

 リリアンヌはそのあり得ない光景に、表情を失っていた。

「感情の大きさに比例して巨大化するだけ?」

 シェリルが小さく問いかけた。ディサレシアに狙われるだけの理由に心当たりのあるシェリルは、ああそうですかと話を終わらせる気にはなれなかった。


「いや、触れると灼熱の業火に包まれる。

 ……こんな感じに」


 アンドロマリウスがディサレシアに手を伸ばす。彼の指が触れた瞬間、アンドロマリウスは炎に包まれた。

「ひっ」

 リリアンヌの小さな悲鳴がシェリルの耳元で響く。シェリルは咄嗟に体を反転させてリリアンヌを抱きしめる。

「ふん。このくらいで死ぬわけがないだろう。

 この炎は気の持ちようで耐えられる。

 この炎もやっかいだが、それ以上にやっかいなのは針の方だ」


 炎に包まれ、燃えているはずのアンドロマリウスの表情は普段と変わらない。彼は炎を纏ったままディサレシアの背後に回り込み、羽をむしって大地へと叩きつけた。

 すぐさまバランスを崩した蜂の胴体を抱えて捻るようにして大地に押しつける。全体重をかければ、蜂の尾から針が飛び出した。アンドロマリウスを狙ったかのように、彼の方へと針が飛んでいく。

 身を捩って回避したアンドロマリウスは、彼の下でもがき逃げようとしているディサレシアの頭部を手で突く。指先を硬くし、爪を尖らせたその手は巨大な蜂の頭を破壊した。

 力が抜けた蜂は重力に従って頭をついた。手が抜け、鮮やかな緑色の液体が滴る。軽く手を振りその液体を飛ばし、立ち上がった。


「この針にだけは刺されるなよ」


 シェリルはリリアンヌに符を渡し、アンドロマリウスの方へと近付いていった。アンドロマリウスはちらしを視線を動かしたが、すぐにディサレシアが飛ばした針へと視線を向けた。針は近くの木に突き刺さっていた。

「今俺を包んでいる炎はどちらかと言えば幻覚に近い。

 それがこの針に刺されたら現実となる。

 より強い力を持って霧散できねば、死ぬしかない」

 シェリルがその炎に触れようと手を伸ばした瞬間、アンドロマリウスは炎を霧散させたのだった。




「俺がちょっと離れた隙に面白い事やってんなよなあ」

 アンドロマリウスがディサレシアを仕留め、リリアンヌが落ち着きを取り戻した頃、アンドレアルフスが戻ってきた。彼はウサギを手にしている。

 狩りをしていたらしい。

「そいつは食べれねーけど、俺は食えるもん持ってきてやったぞ」

 既に血抜きまで済まされているそれを、シェリルに放り投げた。危なげなくキャッチすると、それを抱えて荷物を漁る。


「つか、何でこんな所にディサレシアがいるんだ?」

「俺が知るか」


 アンドロマリウスは蜂の死骸へと近付くアンドレアルフスに返事をし、近くに落ちている枝を拾い上げた。近くにある石を適当に組み合わせ、持っている枝に強化の術をかけて地面へと刺していく。

 簡単なものではあるが、これで十分火を扱う事ができる。

 中に火を吹き込んだ頃、シェリルが皮を剥いで 適当に香草で味付けしたウサギを持ってきた。彼は比較的真っ直ぐな枝をウサギに突き刺し炙り始める。


「アンドレ、ディサレシアで何やってるのかしら」

「気にするだけ無駄だ」

 アンドロマリウスは彼を一瞥したが、興味なさそうに視線を戻した。

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