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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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アホロテ全滅

 アンドレアルフスの動きに合わせ、アンドロマリウスも動いていた。正面に迫る魔力の刃を見据え、槍に魔力を注ぐ。

 アンドレアルフスの動きに急いたらしく、彼へと飛びかかる勢いで近付いたアホロテの一体がバラバラになる。一瞬の後、残りのアホロテが刃に巻き込まれた。

 アンドロマリウスが左下に構えていた槍の切っ先を正面へと動かし、真っ直ぐ、強く踏み込んで突き出した。アンドレアルフスの生み出した刃と槍の切っ先が触れた瞬間、激しい魔力の火花が散る。


「ぐ……っ」


 アンドレアルフスの眉に皺が寄った。魔力の衝突による圧で槍ががたがたと激しく震えている。彼は改めて手に力を込め直し、更に前へと槍を突き出した。

「はぁぁぁっ!」

 風圧で頭部を覆っていたヒマトが外れ、黒髪が舞う。珍しく、普段は長めの前髪で隠れている額が露わになった。圧のせいかアンドロマリウスの表情は歪んでいる。


 じりじりと、アンドロマリウスの体が後退する。砂は滑りやすい。うまく踏ん張りがきかないのだ。

 アンドロマリウスが魔力の刃に耐え、受け止め続ける。放たれた刃は魔力の補給ができない。力尽きるまで、待つしかない。

 そうしている内に、とうとうアンドレアルフスの作り出した刃が負けた。槍の切っ先で突き裂かれたのである。魔力の刃は、アンドロマリウスを避けてシェリルの結界へと向かっていく。しかし、彼女の結界へと届く前に力尽き、霧散した。


 突き出していた槍を下げ、深く息を吐いた。肺の中の空気を全て出し切り、アンドロマリウスはゆっくりと目を閉じた。


 アンドロマリウスが正面へ視線を戻すと、気が付いたアンドレアルフスが軽く手を振った。その手に剣はない。ここに現れたアホロテは全て、先ほどのアンドレアルフスによるふざけた攻撃で全滅したようだ。

 アンドロマリウスの近くに、巨大な体のわりに小さい手が落ちている。アホロテがいただろう場所は赤黒い砂地になり、肉塊が転がるばかりとなっていた。

 ゆっくりと頭を横に振りながらアンドロマリウスが足元を見れば、相当な力がかかっていたのだろう。くるぶしまで砂に埋もれていた。

 埋もれた足を抜いて振り返ると、シェリルがリリアンヌと四頭のヒポカを連れてこちらに移動してくるのが見えた。


「シェリル」


 近くまで近づいてきた彼女にアンドロマリウスが声をかける。シェリルは彼の乗っていたヒポカの手綱を渡して口を開いた。

「こっちは問題なしよ。

 リリアンヌも、ヒポカも、荷物もね」

 シェリルは笑った。その笑い方に違和感を覚えたアンドロマリウスだったが、問いかけようとした所に後ろから割り込まれる。アンドレアルフスが三人のもとにやってきたのだ。

「そらみろ。

 シェリルは大丈夫だって言ったじゃないか」

 アンドレアルフスはアンドロマリウスの右肩に肘を乗せ、小ばかにするように言った。ちらりとアンドレアルフスに視線を動かした彼は、シェリルに感じた違和感が何かに気が付いた。


「……俺が過保護すぎるだけだ。

 自覚はある」


 アンドロマリウスは素直に口を開いた。折角五百年程の時をかけてそこそこの関係を築き始めていたのに、ここでそれを崩すわけにはいかない。

 そう、シェリルはただ守られるだけの女ではない。得た情報から正しい選択をし、カプリスの街を繁栄に導く召喚術士だ。ロネヴェと出会う前からそうであり、彼が死んで彼女がアンドロマリウスの契約者となった今もそうである。

 彼女の矜持を尊守すべきだったのだ。


 それは分かっていたのだが、アンドロマリウスは守りに入った。シェリルは自らの能力が認められていないと感じたに違いない。

 誤解だと伝えなければ。そうアンドロマリウスは思ったものの、良い言葉が浮かばなかった。


 しばらく無言のまま、睨み合いにも似た見つめ合いが続く。最後まで彼女を見つめたまま言い終える事はできなかった。

 彼女の視線に耐えられなくなった彼は、握っているヒポカの手綱に視線を向け、眉をひそめる。

「――が、やめられない。

 別にシェリルの能力を過小評価しているわけではないんだが」

 彼が思っているよりも小さな声だった。

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