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贖う者  作者: 魚野れん
第七章 砂漠の殿下 ─小さな異変─
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砂漠を追う者

 一通りの準備を終えた四人は、ヒポカを引き連れユーメネの端までやってきていた。

「リリアンヌ、辛かったら早めに言ってね。

 何とか対応するから」

 ヒマトでしっかりと身を守り、アンドレアルフスに貰ったクロマで頭部を覆ったシェリルが声をかけた。

「ありがとうございます」

 リリアンヌは返事をしたが、弱音を吐くつもりはさらさらないようだ。シェリルの目を見ることなく、視線が下の方をさ迷っていた。


「マリウス、道間違えるなよ?」

「は、この俺が間違える訳ないだろう」

 アンドロマリウスの目的のものへの方向感覚は優秀である。それ故、迷う事なくまっすぐ目的地へも移動できる。

 砂漠のような、目印を見つけにくい広大な土地を移動する場合、方向感覚の有無は死活問題だ。だが、アンドロマリウスさえ居れば、そんな心配はしなくて済む。

 アンドレアルフスは茶化していたが、アンドロマリウスがいなくともおそらくは関係ない。彼自身、アンドロマリウスとほぼ同等の方向感覚を持っていたはずだ。一度身についたものは、なかなか忘れないものである。

 アンドロマリウスとはぐれても、彼だけはほぼほぼ最短の道のりで目的地へと辿り着けるだろう。


「俺が先頭で、次がシェリル、リリアンヌの順に。殿がアンドレで良いだろう?」

「もちろん構わない」

 アンドレアルフスは軽く頷くとさっさとヒポカに乗った。それに続くようにしてそれぞれもヒポカに乗る。手綱を握って少し引けば、「ンギイィィィ」と独特の鳴き声で嘶いた。




 ユーメネの街が見えなくなってしばらくすれば、そこは右も左も分からぬ砂漠が広がるだけになった。多肉植物が転々と存在するだけである。ごく稀にプロケラと呼ばれる低木を見かけたが、それもない。

 大きな目印と言えば、ヴェルヴィが大きな葉を茂らせている程度だ。

 四人はただ黙ってヒポカを駆けた。


 ふと、先頭を走るアンドロマリウスがスピードを緩める。何かを探るように頭を動かしたが、特には見あたらなかったらしい。すぐに元の速度へ戻った。

 何度か似たような動きを繰り返していたアンドロマリウスがとうとうヒポカを止めた。それにならい、全員ヒポカを止めて彼の元へと集まった。

「何かいる。

 アンドレは見かけたか?」

「いんや?

 たぶん、ここだろうな」

 アンドロマリウスの問いかけに、アンドレアルフスは指で砂地を示す。シェリルはその動作に、地下に何かが潜んでいる事を悟った。


「――アホロテかも」


 シェリルはぽつりとつぶやいた。この辺りは、アホロテと呼ばれる生物が生息している。大きさは、手のひら大の小さなものから全長が分からないほどに巨大なものまである。

 因みに肉食である。

「私たちを捕食するつもり……?」

 カプリスとユーメネの間には、幸運な事にアホロテはいない。ユーメネを境に生息しているのだ。話では聞いていても見た事などないであろうリリアンヌが心配そうに言うのも仕方のない事だった。


 シェリルはヒポカから降りてリリアンヌにヒポカから降りるよう指示する。不慣れな者が戦闘時に暴れるヒポカから振り落とされる事が多い。それを危惧したのである。

 リリアンヌが降りたのを見て、シェリルはヒポカ二匹の手綱を片手に荷物を漁る。そして取り出した符をそれぞれのヒポカの鞍に張り付けた。

「リリアンヌは私から離れないで」

「分かった」

 リリアンヌは緊張した様子でシェリルの真横に移動する。その間に用意していた符をかざし、シェリルは術を発動させた。


「シェリル」

 アンドロマリウスの声が少し離れた所から聞こえた。声の方を向けば、槍を構えた彼と長剣を手にして無造作に立つアンドレアルフスの姿があった。

 手前には、二人の乗っていたヒポカがこちらに向かってくるのが見える。

「こっちは気にしないで大丈夫。

 確実に仕留めてよね」

 声を張り上げてシェリルが言えば、アンドレアルフスが笑った。

「人間より丈夫な悪魔なんだ。心配無用さ」

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