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贖う者  作者: 魚野れん
第一章 召喚術士と囚われの悪魔
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願いの叶う砂漠

「シェリル様、うちの子が帰ってこないんです」


 そう、シェリルが相談されたのは、夜遅くになってからだった。彼女がよくよく話を聞いてみると、町の南にある砂漠へと行ったきり戻ってこないというものだった。


 この町では、その砂漠の中心で願い事を唱えると叶うという言い伝えがある。それを信じた子供や若者が砂漠へ向かい、迷子になる事もしばしば。今回もそれであろうとシェリルは見当を付ける。


「分かりました」

「アンディは必ず見つけて帰らせる。

 奥さんは、家で温かい物でも作って待っていると良い」

 シェリルがにこやかに返事をすると、隣に立つ男が女性を宥めた。落ち着きを取り戻した彼女は、お辞儀をして帰って行く。それを見届けてから、シェリルは動き出した。


 シェリルが用意をしているのは、毛布と上着だ。町が近いとはいえ、夜の砂漠は冷える。町から離れれば離れるほど、その気温は下がる。どこまで行ったのかは分からないが、準備して奥に越した事ははいのだろう。


「マリウス、アンディだっけ? どこにいるか分かる?」

「ある程度は」

「準備できたから、行きましょ」

 シェリルがそう言うなり、彼女の荷物をさっと取り上げて外へと出てしまう。くすり、と小さく笑うと、彼の後を追った。


 町を出ると、アンドロマリウスが片腕を差し出した。乗れと言う意味だ。シェリルが体を寄せれば、荷物を渡してくる。それを受け取ると、彼は少しかがんでから彼女の体を持ち上げる。彼の左腕に座るように収まり、彼女は右腕で彼に掴まる。


 目的地まで距離がある場合、最近はこうして彼女を抱き上げて移動するのだった。

 シェリルが荷物を膝の上に載せて左手で押さえるのを確認した彼は、黒翼を広げて飛び上がった。




「シェリル、あそこだ」


 アンドロマリウスが指さす先に、人が見えた。意外にもしっかりとした足取りで、体を左右に回している様は何かを探しているかのようだ。


 彼の近くに降り立ち、シェリルが声を掛ける。

「アンディ、迎えに来たわ」

「君の母親が心配して、探してくれと頼んできた」

 振り向いた少年は、むすっとしている。15歳頃だろう彼は、おそらく目的を果たせていないのだ。


 シェリルとアンドロマリウスの姿にほっとする訳でもなく、ちらりと目を向けただけで視線は足下へと向かってしまう。


「とにかく、これにくるまって。

 寒いでしょう?」

 シェリルは強引にアンディを毛布でぐるぐる巻きにした。


「アンディ、何か願いがあるのか」

「……」

 アンドロマリウスが少年と目線が合うようにしゃがむ。シェリルは少年の頭を優しくなでた。


「母さんは、いつも僕に辛く当たるんだ。厳しいことばかり言う。

 きっと僕のこと、いらない子だと思ってる。

 ――だから、母さんが心配してるなんてウソだ」

 話し始めれば、すらすらと言葉が出るようだった。うつむいたままの少年は、震えていた。


「……お母さんに愛してもらいたいんだな。

 優しくしてもらって、甘やかされたいのか」

「……うん」


 少年の足下に滴が落ちる。アンドロマリウスは彼の肩を軽く叩くと立ち上がった。


「厳しいから、愛していないとは限らないぞ。

 今帰れば、分かるはずだ」

「おうちに帰ってみようよ。

 夜の砂漠は、色んなのが出て危険だよ」

 アンドロマリウスが言えば、頭を下げて不満そうにした。だが、シェリルが砂漠の危険を説けば、不安そうに彼女を見上げる。


 少し視線をさ迷わせた後で、しっかりとアンディは言った。

「――分かった。帰る」

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