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贖う者  作者: 魚野れん
第六章 砂漠の殿下 序
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同行者

 カリスまでの道のりは長い。それを考えると、見知った相手が同行者となるのは心強い。しかしアンドレアルフスがとにかく目立つ。

 シェリルはカプリスに召還術士が不在だという事が知られないよう、できるだけ目立たないようにして移動したかったのだ。

「シェリルに任せる。

 俺はどちらでも構わん」

 アンドロマリウスはそう言って選択権を投げてしまった。残されたシェリルは二つの選択肢を前に、逡巡しかけた。そこではた、と思う。

 目くらましの術ならば、ここに使える人間がいるではないか。何も、目くらましは本人がかけなくとも良いのだ。シェリルが術をかけようが、アンドレアルフスが術をかけようが問題ない。

 丁度、まだ無地の符もある。いける。一番の問題さえ解決すれば、断る理由もなくなった。


「良いわ。

 一緒に行きましょ」


 アンドレアルフスが瞬きをし、アンドロマリウスが目を閉じた。

「ただし」

 彼女がそう続けると、アンドレアルフスが興味津々な様子を隠さずに身を乗り出した。リリアンヌはぴたりとも動かず、成り行きを見守っている。

「今から作るものを肌身離さずに持ち歩いてもらうわ」

 シェリルは彼の返事を聞かずに無地の符を取り出した。荷物の中から出したペンと針をテーブルへと置く。更に小さな布を手にし、それに息を吹きかける。

 小さく式が描かれているそれは、息を吹きかけられた途端に濡れた布へと変わる。その布で針と指を拭き、針を指に突き刺した。


 小さな赤い粒ができる。今度はその赤い粒をペンに吸わせた。一滴の血液にペンは反応し、ほのかにペン先が光り出す。

 光り出したペン先を確認したシェリルは、符へと式を描き込んでいく。ペンの走った後を青黒いインクが、記号の組み合わせにも似た、しかし意味のある羅列を作っていった。

 シェリルのペン先に宿った光が消えるのと、シェリルが符を描き終わるのとはほぼ同時だった。できあがった符を一撫でし、術を作動させる。

「はい、どうぞ」


 シェリルがまっすぐ札を持つ手を伸ばすと、アンドレアルフスは素直に受け取った。途端、アンドレアルフスの纏う雰囲気が変わる。

「これは……面白いな」

 アンドレアルフスは満足そうに頷き、手元に残っていた飲み物を飲み干した。


「いちいち目立たれちゃ堪らないわ。

 それは私と長時間離れない限り、ずっと機能する。

 これなら動きやすいでしょ?」

 シェリルが回りを確認すれば、奇抜な装いを気にする人はあれど、彼の存在感に気を取られる人間はいなくなっていた。

「これなら、顔を隠す必要もないな」

「ここまで地味になれば誰も孔雀など見ないだろうな」

 アンドロマリウスのお墨付きも得、アンドレアルフスはそれに同意した。アンドレアルフスは自らを彩っているクロマをはぎ取った。

 途端、華やかな金糸が舞う。だが、それでも周りは注目しなかった。術がうまく働いているのだ。


「シェリル、お礼にこれあげる」

「……ありがと」


 アンドレアルフスは立ち上がり、先ほどまで身につけていたクロマを、シェリルへ巻き付ける。ヒマトに絡ませるようにして飾りのように結ばれた華やかなそれは、シェリルの首元を彩った。

「白一色のあんたもそれはそれで美しいけど、多少は色がある方が可愛らしくなるよ」

「別に飾りたてる事もあるまい」

 アンドロマリウスの不満そうな声が横から入ってきたが、アンドレアルフスは気にしていないようだった。


「そんな事より、どうやって行く?」

 シェリルは地図を取り出してテーブルに広げ始める。シェリルはさっさと行って、早く帰りたいのだ。無意味な会話を進めるよりも、建設的な話をしたかった。

 それに、またなじみの会話に熱中されてしまうとシェリルは居心地の悪さを感じてしまう。


「あんたたちはどうするつもりだったんだ?」


 話の切り替えに乗ったアンドレアルフスが質問返しをした。返されたシェリルはアンドロマリウスへと顔を向ける。

 視線を感じた彼は、ちらりと彼女へと視線を向けるがすぐに地図へと向けた。

「砂漠を通り抜けるのは近道だが難しい。

 そこで、砂漠を途中で逸れ、草原を通る」

 アンドロマリウスが言ったのは、シェリルと相談していた事とは正反対の物だった。

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