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贖う者  作者: 魚野れん
第五章 体調を崩した召喚術士
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アンドロマリウスの奉仕 *

 座ったままのシェリルを横目に、海綿で石鹸を泡立て、それを彼女へと渡す。受け取ったのを確かめて、アンドロマリウスは彼女から離れた。

 アンドロマリウスが背を向けていると、少ししてから身体を洗う音がし始める。

 ふんわりと、石鹸の香りが漂う。今回アンドロマリウスが用意しておいたのは、柑橘系のオイルを使ったものだ。


 爽やかなレモングラス、ベルガモットにさっぱりとしたペパーミントを混ぜ、少しだけイランイランの精油を加えて甘みを出した。と、前にシェリルが得意げに言っていたのを思い出す。

 やる気のない人形のようなシェリルを最初に見てしまったアンドロマリウスにとって驚いた事だが、シェリルは色々と作る事が好きなようだった。人間としての生活を取り戻してからは、様々な物を作っていたのは確かだ。

 彼女の作った石鹸には色々な香りや効能を付与させた物がたくさんある。その中でも、アンドロマリウスはさっぱりとした香りの物を選んだつもりだった。


 その間に湯桶を手に取り、湯を汲んでおく。いくつかの湯桶を満たし、シェリルの近くに置いた。

 ぱしゃぱしゃと、湯をかける音だけが響いた。空になった湯桶にまた湯を汲むと、今度は声をかけられた。

「もう大丈夫。足りるわ、ありがとう」

「そうか」

 今度こそ手持ち無沙汰となったアンドロマリウスは、声をかけられるまでその場で待つ事なく、口を開いた。


「髪は俺が洗おうか?」

「え?」


 すでに離れた場所へ行ったと思っていたのか、シェリルが振り返る。浴室に入ってから初めて彼女と目があったアンドロマリウスだが、その瞳には不快感が含まれていなかった。それを確認すると、彼女を抱き上げた。

「湯冷めするから、おまえは湯船につかればいい」

「え、ああ。うん」

 アンドロマリウスが思うよりも、すんなりとシェリルは頷いた。ゆっくりと彼女を湯船に入れると、縁へと頭を預けた。


 結い上げた髪を解く。長い髪を湯桶が受け止めた。湯をかけて彼女の髪を濡らすと、アンドロマリウスは立ち上がった。

 浴場から脱衣室へと移動してすぐの棚から二本の瓶と一つの小瓶を取り出し、すぐに戻る。シェリルの側にひざまづくと、湯船の縁に瓶を置いた。

 片方の瓶の中身を手にとる。やや濁り気味の、とろみの付いた液体は彼女お手製の液体石鹸だ。固形の石鹸よりも、髪を洗いやすいからと自作しているらしい。


 作るのが難しいからと、こちらは香りの強い精油を混ぜずに作製していた。泡立てる前に精油を数滴混ぜるのがシェリル流の使い方だと言っていた。

 彼女の言っていた通り、精油の入った小瓶を持ってきていたアンドロマリウスは、それを数滴石鹸へ加えた。泡立て始めると、先ほどの石鹸にも似た柑橘の香りが漂った。


 泡立てた石鹸を、彼女の髪へ付けていく。泡をもみ込んでいくようにして髪に馴染まると、ゆっくりと洗い始めた。額の生え際の方から、生え際を沿うようにして耳の裏へと回り、うなじの辺りを揉んでいく。

 もちろん爪を立てないように、細心の注意を払っていた。

 本業ではないし、やり方もよく知っている訳ではない。それでもアンドロマリウスは丁寧に彼女の髪を洗った。生え際から髪を流すように頭頂部の方向へと揉んでいく。

 くしゅくしゅと、泡と髪がぶつかりはじける音が小さく響いた。


 親指をシェリルの小さな頭頂部へと固定し、残りの指先だけでしっかりと揉む。そして、今度は親指へと少しだけ力を込めながら、首筋の方へと向かわせた。

 簡単に湯を流し、改めて液体石鹸を取り出し泡立てた。そして今度は髪を中心に洗い始めた。

 一通り洗いあげて満足したアンドロマリウスは泡を流す。念入りに石鹸を洗い落とすと、今度はもう一つの瓶を手に取った。

 軽く水を切ったシェリルの髪に、瓶の中身をかけていく。シェリル特製のアップルビネガーだ。しゃばしゃばとした液体は、ややつんとしたリンゴの香りを広げていった。

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