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贖う者  作者: 魚野れん
エピローグ
343/347

生まれ変わったシェリルと悪魔達

 シェリルは手持ちぶさただった。ただ木の枝の一つに腰掛けて足をぶらぶらとさせている。

 本当は、アンドロマリウスとの散歩という名目で魔界を見学していたはずだった。


 千年も別の世界で現を抜かしていたと魔界に住む一部から密やかに言われているのはシェリルも知っていたが、直接絡んで来る輩がいるとは思わなかった。

 そう、その輩をアンドロマリウスが絶賛対応中なのである。


「……殺せないって面倒ね」

 言葉がぽろりと漏れた。殺して何もなかった事にしてしまえば簡単なのに、と思ってしまったのである。目覚めてから、少し思考が好戦的になった気もしなくもない。それは多分ユリアの魂が原因だろう。

 ユリアの影を感じるのだと前向きに考える事にしている。


 睨み合うアンドロマリウスと数人の男は、じりじりと距離を保ちながら円を描いていた。「うっかり殺しちゃいました」が通じない世界だ。

 言わずもがな、名持ちであるアンドロマリウスは強者であり、相手はただの悪魔で弱者である。


 アンドロマリウス曰く、特に魔界では、人間を相手にするような動きは悪魔には簡単に防げてしまうが、力の加減を間違えれば簡単に滅んでしまうらしい。

 それでちんたらと相手をしているのだ。


「俺は忙しいんだ」

「千年の休暇は楽しかったかよ?」

 アンドロマリウスは溜息を吐いた。さっさと行動不能にさせてしまえばいいのに。


「ああ。楽しかった。だから今こうして魔界に尽くしている」

「人間の尻に敷かれた名持ちなんて、あっという間に朽ちちまうぜ」

「……人間をひいきしているつもりはないが」


 悪魔達はアンドロマリウスを取り囲むように移動していく。

 囲まれた所でアンドロマリウスの動きを止められるとシェリルには思えなかったが、少しでも有利になりたいという悪魔の気持ちは分からなくもない。


 シェリルは久々の外を楽しみにしていたのを邪魔されていて、おもしろくなかった。

 慎重に動いているアンドロマリウスに対し、悪魔達は何故か怒りを持っている。引きそうにない。

「お前の子供が俺の親友を殺したんだ!

 人間びいきじゃないならあの女は何なんだ!」

「そうだ。責任をとれよ!」


 ロネヴェとシェリルの被害者に近しい悪魔だったようだ。もしかしたらアンドロマリウスと共に出てくるシェリルを狙っていたのかもしれない。

「シェリルは俺の妻だ。落とすのに時間がかかっただけだ。

 それと、俺はロネヴェを殺す事で責任は果たしたが」

 アンドロマリウスは淡々と答えていく。


 ――何に時間がかかったって?

 シェリルは心の中で文句を言った。ちらりとすぐさま視線が飛んできたあたり、聞こえてしまったかもしれない。

 あんな雑魚相手に見栄っ張りな男だ。普通に私と生活していただけのくせに。


「死には死を。お前達に対する贖いは既に終えている」

「俺達の気がすまねぇんだよ!」

「これ以上贖いようがない」


 恐らく親友がいなくなって胸に穴が空いているのに、その原因の親は後始末をしてから人間と千年も長い休暇を取っていた。不公平に感じたのだろう。

 魔界ではある程度死に関する感情の制御ができるものだと思っていたシェリルは、情を見せる悪魔達へ単純に驚いた。


「女をよこせ」

「……は?」

 アンドロマリウスが妙な事を口走った男へ鋭い視線を投げると、周辺の温度が下がった。

 シェリルの驚きは呆れへと変わる。これでは単なる僻みではないか。


 つまり「同じように苦しい思いをしたはずなのにお前だけ幸せになってんじゃねぇよ」という。

 くだらない。その気持ちは間違っている。 


 シェリルの周囲にある枝がざわざわと揺れた。魔界は面白いくらいに力の影響を受けやすい。シェリルの感情にさえこうして反応する。

 シェリルは魔族に対する苛つきと周が動く事への不思議さの遠い位置にある両方の感情を抱いた。


 そして良い事を思いつく。こういう時は一旦思い知らせるしかない。

 シェリルはナイフで簡単に指先を切ると人差し指を使って術式を組み立てたのだった。

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