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贖う者  作者: 魚野れん
エピローグ
342/347

二人で贖う *

 アンドロマリウスは腕の中で痴態を見せるシェリルに、心の充足を感じていた。

 初夜を無事に終え、回を増やすほど、反応は良くなっていく。アンドロマリウスはロネヴェがこの誘惑によく耐えたものだと心の底から感心した。


 九割型アンドロマリウスからの誘いになってしまっているが、無理矢理抱いている訳ではない。

 始まってしまえば積極的になる妻は、恐らく言い出すのが恥ずかしいだけだろう。快感にまみれて潤みきった瞳はアンドロマリウスをおぼろげに映し出していた。


 覗き込んでそれをはっきりと読めば眉をひそめ、快感に鼻息を荒くさせるみっともない己に見えたが、それをどうこうするほどの余裕はない。

 その瞳から視線を逸らせば、シェリルの唇が目に入る。互いの唾液で潤っているそれが蠱惑的に動いた。思わずむさぼった。


 どこもかしこも甘く感じる。アンドロマリウスは今までにない幸福感を味わっていた。

 きっと彼女なしでは生きていけない。

 たとえシェリルがアンドロマリウスと同じだけの感情を持っていなかったとしても、手放す事などできそうになかった。




 シェリルはぼんやりと天井を見つめていた。実感が湧かない。ただ、新しい契約をしたという気持ちの方が大きい。

 大々的にお披露目だって済ませた。夫婦になって、変わった事はほとんどない。前よりも魔界で過ごしやすくなったくらいで、アンドロマリウスとの関係はそのままだった。


 名実ともに夫婦にはなれた。アンドロマリウスはこちらがとろけそうなほどに優しくしてくれるし、それは寝室でもそうだった。

 多分、シェリルの方が問題なのだ。

 パートナーとして、長くいすぎた。


 愛はあるけれど、甘い恋心のようなものが足りない。

 ロネヴェといた頃のような、甘い恋が足りないのである。


 シェリルが眠り続けている間にアンドロマリウスは変わってしまった。それは保護者のようだったのが恋人や新婚夫婦のような思考に、だ。

 シェリルと過ごしてきた時間よりは短いが、シェリルの眠っていた時間は長い。その間に気持ちの切り替えができたのだろう。


 シェリルは、五百年以上前の状態のままで目が覚めてしまった。だからこその温度差と言えばいいのか。

 違和感と言ってしまうほどの事ではない。ただ実感がなくて戸惑ってしまう。


「シェリル、悩み事か?」

 寝台に戻ってきたアンドロマリウスはその手にグラスを持っていた。

「夫婦になった実感がなくて」

「またその話か。良い。何でも聞いてやる」


 シェリルが揺れないようにそっと寝台に腰を下ろした悪魔がグラスを一つ渡してくる。酸味のある甘くてさわやかな香りがした。リンゴ酒だ。

 正直にシェリルが話せば、何でも聞いてくれるようになった。いや、今までだって話をちゃんと聞いてくれていたのに、当然の事だと勘違いしていただけかもしれない。


 彼は同じ話を何度も繰り返したとしても、快く聞いてくれる。

「五百年分、気持ちに差があるんだ。

 今は昔と同じだけ大切に思ってくれているだけで良い」

 待たせている。シェリルはそう感じた。漆黒の悪魔は、シェリルのこめかみに音を立てながら口付け、頭を撫でた。


「待ってやろう。引っ張ってやろう。

 だから、俺から離れてくれるな」


 彼の声がかすれた。そこに潜む必死さを感じ、シェリルの胸がきゅっと締まった。

 こんなに愛されているのに、そのまま返してやれないなんて。


「良いか。俺は幸せなんだ。

 だから今度は俺がお前を幸せにしてやる」

 アンドロマリウスの真っ直ぐな視線と交差する。美しい赤い瞳に白い女の姿が映り込む。

 どこかおびえているようにも見えるその女は、シェリルだった。


「幸せになる事を怖がるな。

 二人で幸せになって、ロネヴェへの罪を共に贖おう」

「……二人で」

「まあ、あいつの事だ。俺の幸せなんぞ考えてもいないだろう。

 お前が幸せになってくれれば充分だからな。

 だが、シェリル。お前に幸福を与えるのは俺だ」


 随分な言い方だった。

 そうは思うものの、シェリルの口角は勝手に上がってしまうのだった。

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