後始末に走る
「マリウス、どうだ?」
アンドレアルフスはアンドロマリウスが魔界へ戻ってきてから、数日毎に彼の屋敷へやってきていた。
それはもちろんシェリルが眠っているからであるのと、今までの遅れを取り戻さんとするアンドロマリウスの補助をする為である。
おおよそ千年に渡り、仕事を放棄していたのだ。
溜まっているものは多い。
たまに魔界へ戻っていたアンドレアルフスでさえ、溜まっている仕事をこなすのは楽ではない。
今回アンドレアルフスはシェリル用の耳飾りを用意したり情報を集める為に戻った際、仕事を消化していたから余裕があった。
更には転生した天使が天の結界を張ったせいで先に魔界に戻る羽目になっていた。魔界からできるのは何もない。
アンドレアルフスはシェリル達の事を心配しながらも自分のできる事――つまり溜まっていた仕事の消化――をするしかなかった。
それでも仕事は終わらず、今だって自分の仕事を進めてからアンドロマリウスの屋敷へと足を向けたのだ。
アンドロマリウスが抱えている仕事の量がどれほどかは想像に難くない。
「シェリルの眠りがいつ解けるのか、それは俺には分からん」
「……だよなぁ」
アンドロマリウスが行っている仕事は、アンドレアルフスもだいたい分かる。半分以上は名持ちとしての仕事、残りは悪魔としての仕事である。
アンドレアルフスは一時、アンドロマリウスの核を持っていた。その頃は仕事の鬼のようだったな、と思い出す。
「まあ、あんたが長期の仕事に出る時は俺とプロケルで守るから安心しろよ」
アンドロマリウスは胡散臭そうな視線を寄越す。そんな顔をしたって無駄だ。
シェリルの事を思って避けているようだったから、踏ん切りを付けさせる為に言ったのだから。
「知ってんだぞ。本当は膠着状態になってる戦争に駆り出されてんの。
あんたが行くなら俺かプロケルのどっちかは免除にしてもらう。
免除になるのはプロケルの方かもなってか、来るなって言われてそうだけど」
「あいつが行くと天使どもの警戒度が上がるからか」
「その通り」
戦乱時に悪魔の身を見せれば密偵扱いされてしまうプロケルだが、本当の所は密偵としては微妙だ。天使の時に得た情報を安易には流せないようになっている。
天使の核は天使としての役目を負っているのだから、同じ個体に入っていて意識が繋がっているとは言っても、見た目ほど簡単な事ではない。
アンドレアルフスでならできる事がアンドロマリウスの時にはできない。また逆も然り。それを経験したアンドレアルフスだから分かる事だ。
だからプロケルには、有事の時は引っ込んでもらう事が多い。本人も戦いに特化した核ではないから気にはしていないだろうが。
そういう意味では、戦闘に特化している訳でもないのに駆り出されるアンドレアルフスやアンドロマリウスの方が嘆くべきか。
「俺は存在しているだけで威嚇できるし、そう言う意味ではプロケルよりも便利だぞ」
敵味方関係なく弱いのから死んでいく為、大体が主力の警護か上級悪魔である部下を引き連れての特攻だ。
これについてアンドレアルフスはもう諦めている。
打診のあった世界がどういった状態にあるのかは、アンドレアルフスにも分からない。ただ、天使と膠着状態にあるのであればアンドロマリウスに天使の計画を暴いてもらい、戦争を進めるべきだ。
時間はかかるだろうが、それも悪魔の仕事だ。
「お前が便利なのは分かっている。俺が行かなければならないのも」
確か、数百年前から始まった戦争のはずだ。アンドロマリウスが参加していたら膠着する前に決着がついただろうに。
アンドロマリウスをあの世界に留め置いたシェリルが悪いとは思わない。そもそもアンドロマリウスの力を借りなくとも勝てるはずだ。
尻拭いをするのはこちら側なのだから待たせておけば良い。とは思うものの、同胞が減るのは困る。
「やるならさっさとやって、シェリルが目覚める前に戻って来ようぜ」
「……そうだな」
悪魔二人は頷きあい、件の書類を呼び寄せるのだった。