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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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和解した双子と前を向く召喚術士

 馴染みきっていたはずのヨハンの魂がユリアの魂に激しい反発をしせいで、死にかけた気がする。

 既に仲直りした双子は私の目の前で仲睦まじく茶を入れあっているが、きっとその光景が見られるのはあと少しの間だ。

 ユリアの魂はヨハンと和解してから馴染みきった。


 今では二人がシェリルの手伝いをする為だけに姿を現していて、役目が終われば二人とも消えていく。

 シェリルは、自分から見れば短い、悪魔から見れば少しだけ長い。そんな眠りについていた。


「シェリル、ほらこっちを食べて」

 完全に敬語でなくなったユリアはにこにこと笑みを浮かべてフォークを持っている。その先には甘い菓子が刺さっている。

 シェリルはそれを口に含んで咀嚼した。


 実の所、菓子の形をしたそれはシェリルの魂に同化させる力そのもので味など感じないが、気の持ちようでなんとでもなる。

 魂の同化なんて人間には馴染みのない行為である。力を自分のものに変えるのと同様、息をするようにできれば良かったのだが、シェリルにはできなかった。


 そこで思いついたのが食事である。


 食べるという行為は自らに食物を納める行為である。この馴染み深い行為を絡める事によって効率よく魂を取り込む事が可能なのではないかと考えたのだ。

 ただ放置していても最終的には力のある魂に吸い寄せられるようにして同化していくだろう。それを早めるのはシェリルの努力次第だ。


 今のシェリルは主にヨハンとユリアの魂で構成されており、アンドロマリウスが寄越してくれた無の力、アンドロマリウスの力、この二種類が欠けてしまっている魂に寄り添うように漂っている。

 寄り添っている力を取り込めば、再び完全な魂の形になり、目覚める事ができるようになるだろう。


 顔を上げれば、ユリアと同じ顔で穏やかな笑みを浮かべているのヨハンがいる。ユリアとの長い喧嘩は猛烈だった。

 彼らが揉めている間、シェリルを守るように黒い靄が纏わりついてきていた。あれはアンドロマリウスの力だった。熱くも冷たくもない、何の感触もない靄。

 その恒久な冷静さが彼に似ていた。眠りについたのは自分の方なのに、つい先ほどまで視界に入っていた彼が懐かしく感じたほどだ。


 双子が揃った時は何が起きたのかと思ったが、プロケルとアンドロマリウスに案内されたという言葉を聞いて納得した。シェリルそっちのけで喧嘩を始めてくれたお陰で状況も理解できた。

 ユリアはユリアでシェリルを助けようと考えていて、その方向は天使の意図と寄り添っていた。その結果、ユリアはヨハンを手に掛けたのだ。


 二人の喧嘩を見ながらしみじみと思った。対話は必要だ。シェリルも目覚めたらアンドロマリウスとゆっくりと語り合おうと考えている。

 自分一人で考えてはいけない。ロネヴェがそうした結果、どうなったのかを知っているのだから、同じ過ちはもう二度と繰り返さない。


 ヨハンが用意してくれたお茶を飲み、一息つく。

 いつ食べ終わるのか分からないが、まだ食べるべき力はたくさんある。早く目を覚まして、アンドロマリウスの声が聞きたい。


 ずっと近くで見守ってくれていた、憎かった悪魔。


 憎みきれなくて、ずいぶんと悩まされた。何を考えているのかも分からなかった。

 私が前を向いて歩けるように、寄り添ってくれていただけだなんて分かるはずもないけれど。


 話をしたい。向き合っているつもりでずっとすれ違っていたのだ。今度こそしっかりと向き合いたい。

 今なら、これからなら真っ直ぐにアンドロアマリウスを想い、彼の感情を素直に受け止める事ができる。皮肉でも何でもない、互いに持っているそのままの感情を受け入れる事ができる。

 穏やかな気持ちでロネヴェとの生活だって共有できる。一緒に悲しんで、思い出し笑いだって。


 それにはまず、ここにある全てを飲み込まなければ。

 シェリルは目の前にいる二人が用意する料理に向き合うのだった。

2019.10.14 誤字修正

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