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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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ダブルバインドの先

 シェリルの機転に助けられながらアルクの森から帰還した。転生した天使の長きに渡った策略からは、アンドロマリウスは覚悟を決めてシェリルと生き残った。

 その間もずっと相手だけではなく自分とも戦っていた気がする。


 自分との戦い。シェリルと出会ってから――いや、ロネヴェを殺すと決めてから、ずっと続いている。

 葛藤と言えばいいのか、それとも二重拘束と言った方が正しいのか。


 ロネヴェを殺さねばならない。しかし、殺したくない。

 ロネヴェを殺す原因となる女を責めたい。しかしロネヴェはこの女の面倒を見てほしいと望む。

 女の面倒を見ようとしたら、拒絶される。しかし、己は彼女を守らねばならない。


 それを乗り越えて、自らシェリルを守りたいと思った。そうしたら、今度はまた異なる矛盾が待ちかまえていた。


 シェリルを愛しく思いたい。しかしシェリルはロネヴェを想い続ける。

 自分のものにしたくとも、彼女はそれを阻む。

 ロネヴェという存在が愛しくも憎く、だが単純に「許せぬ」とは思えない。

 単純に保護者に徹したくとも、シェリルが距離を縮めてくる。そのくせにロネヴェが一番だと泣く。


 単純に愛しいと主張するようになったアンドレアルフスが羨ましかった。

 ロネヴェがいようと、シェリルがアンドレアルフスに親愛以上の気持ちを抱くそぶりがなくとも、己にシェリルを守るだけの力をふるえる状況にないと分かっていようとも、全力で彼女を愛しいと言う。


 アンドレアルフスにシェリルを取られたくないから、彼が羨ましいからと、それをそのまま真似て実行に移す事はできなかった。

 あの悪魔がそうできるのは、ロネヴェを殺していないからだ。


 アンドロマリウスは最初の時点で躓いているのである。


 ロネヴェを殺さねば、シェリルに対して常に正直であれただろうか。

 いや、ロネヴェが死ぬ事でシェリルの命は守られた。シェリルが生き残るには、ロネヴェの死以外の条件はなかった。

 結局……アンドロマリウスにはこの運命しかなかったのだ。


 愛しいと感じても、それを口にしてはならない。シェリルが情愛に近いものを少しでも匂わせたら窘めた。距離を保たねば、アンドロマリウスは動けなくなってしまう。

 ロネヴェを裏切る気はない。彼の願いを叶える先に、自分は黒子として存在するしかない。そう思い続けていた。


 天使を退け、核をこの身に戻した時、図らずとも生まれていた己自身の記録がロネヴェの核からの伝言を携えていた。

 それは「正直に生きろ」だった。記録同士が接触できるというのは初めて知った。

 いや、もしかしたらシェリルが成した奇跡のようなものだったのかもしれない。


 アンドロマリウスはその助言を飲んだ。

 その結果、彼女を眠らせる直前に嬉しい言葉を聞く事ができた。「あなたとなら幸せになれると思う」と。「私の手を引っ張っていって欲しい」と。赦された。そうアンドロマリウスは思った。




 今までの事を振り返る事で、自分の気持ちを整理しようとしたが、結局の所ロネヴェとシェリルを愛しく思う自分がいただけだった。

 そしてその気持ちに振り回される自分がいただけだった。


 生まれたてで何も分からずに死にそうになっていたロネヴェ。

 たまたま拾った名無しの悪魔を育てる事は容易ではなかった。

 あれは、確かに自分の子供であり、親友だった。ある意味計算高く、恐ろしい悪魔だ。こんな未来がやってくる所まで見通していたのだろうか。


 失いかけていた命を助け、育てた子供を、自らの手で手折った。それが本人に請われての事であっても、仕方なくであっても、簡単に己を赦し、何事もなかったようにはできない。

 シェリルからの赦しを得たからこそ、己にのしかかってくる。

 口元が勝手にひくついて、眉間に皺が寄った。

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