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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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自分との戦い

 アホロテの移動が終わってからは少しだけシェリルの身を休ませた。彼女にはこれから一仕事が待っている。

 水分不足は深刻な問題だ。それを解決するには雨乞いが必要である。これは精霊の力を借りる為、アンドロマリウスが手伝える事は少ない。悪魔の関わりを匂わせるだけで失敗する術である。


 疲れ切っている肉体に力を注ぐ。だが、すぐに馴染むぐらいに抑えておかなければならない。

 シェリルに気が付かれたくないのもあるが、それ以上にこれから雨乞いをする事になる彼女に、失敗する要因を作らせたくなかったのだ。


 最低限だけを与え、しばらく彼女の寝顔を楽しむ。

 シェリルの錯乱で浮き足立っていたアンドロマリウスは、穏やかな寝顔をふわふわとした気持ちで眺め続けた。


 アンドロマリウスはシェリルを甘やかせる気はなく、十分な睡眠時間を与えてから起こした。水気の確認も、雨乞いをするという決定も全てシェリルにさせた。

 彼女はしっかりと用意をし、無事に雨乞いを行った。やり遂げた彼女は力尽きて倒れてしまった。


 予想はしていた事とは言え、シェリルの状態を見たアンドロマリウスの気持ちは沈んでいく。

 ここまでしなくとも、そう言いたくなったが、召還術士として街に尽くす事は彼女の願いでもある。叶えてやりたい。叶え続けるのは俺だけだ。


 倒れた彼女は冷たく、死人のようだった。彼女に温もりを取り戻させようと苦心しながら、いっそこの街をなくしてしまおうかと考えた。

 シェリルはそんな事を望む訳がない。

 アンドロマリウスはシェリルへゆっくりと力を分け与え続けた。やがてシェリルが目を覚まし、力を強請る。それからは己の理性との戦いだった。


 悪魔らしく、主の求めるがままに応じても良かった。だがそれは自分らしくない。

 シェリルは力を渇望する余りに大胆になっているだけだ。アンドロマリウスは十分に理解していた。本当に欲しいのはアンドロマリウスではなくロネヴェだ。


 理性が勝った結果、アンドロマリウスは苦い気持ちを抱きしめながらシェリルを宥めるしかなかった。

 シェリルが力を使い果たした事もあり、常に彼女との繋がりを保つ事にした。

 本当は繋がり続けるほどに精神が近付くからやりたくはない。それに、強い意志を抱くと相手に知られる恐れもある。


 シェリルには繋がっている事を秘密にした。

 それは伝えてしまえば意地っ張りな部分のある彼女が意図的に心を閉ざしてしまう可能性があるからだ。盗み聞きしているようで気が咎めるも、これは必要な事だと割り切った。


 アンドレアルフスが戻り、フロレンティウスの協力を得てアルクの森まで情報を掴みに行くと、そこには罠のような仕掛けが待ち受けていた。

 アンドロマリウスは繋がりを持たせたままにしておいて良かったと自分の選択を褒めてやる。


 三体の生物が現れ、アンドロマリウスはすぐに二体を引き受ける事に決めた。

 アンドレアルフスとシェリルがピュレンシスを選び、さっさと移動し始めるのを見て、残った二体に集中した。

 二体を手玉に取っていたら、シェリルの情けない悲鳴のような感情がアンドロマリウスに届く。


 一体あの二人は何をしているのか。本当にばかげているとしか思えないが、シェリルの気持ちが筒抜けにでもなったかのようだった。


 苦戦するような相手ではないはずだ。アンドロマリウスはシェリルの感情を味わいながら二体に対峙する。

 さっくりとピュレンシスを倒すと思っていたアンドロマリウスだが、笑ってしまいたくなるような感情の波を見せるシェリルが近付いてくる気配はない。徐々に心配になってくる。


 思ったよりも時間がかかっている。

 彼女の感情の揺らぎも届かなくなった。アンドロマリウスもこの二体に苦戦し始めるようになり、自分の精神状態との戦いが始まっていた。

2019.10.14 誤字修正

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