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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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黒い悪魔は冷静に混乱する

 アンドロマリウスは、フロレンティウスの噂を耳にした時、シェリルには話すまいと決めた。

 それは、やっかいな内容であったし、余計な気を揉ませない為でもあった。


 砂漠の王らはたびたびシェリルにちょっかいを出してくる。それはロネヴェの時から変わらない。

 ロネヴェの時はシェリルが大暴れしたらしく、詳細は知らないがクリサントスが手紙を寄越した際に複雑な顔をしていた。


 クリサントスの時は、本人がシェリルを手込めにしようとした上に、エブロージャの人間を盾にして悪魔の逆鱗に触れた。アンドロマリウスとアンドレアルフスは彼の兵士等を大量に処分してしまった。

 それだけの大事を起こしただけに、クリサントスは後日謝罪と共にシェリルには関わらないとの書簡を送ってきた。


 そんな流れがあったというのに、フロレンティウスはシェリルを探しているのだという。

 クリサントスがシェリルの存在を秘匿しようとしたお陰か、捜索の人相書きにはシェリルの名はなく、その代わりに希代の召還術士とだけ書いてあった。


 詳細はかなり曖昧で、「悪魔を従えるほどに強大な力を持つ召還術士」「非常に美しく、冷酷」「見る人間を惑わす力を持っている」とシェリルが見たら一笑して捨ててしまいそうなものだった。

 だが、それだけに危険だとアンドロマリウスは直感した。

 アンドレアルフスもそうだったらしく、シェリルへ復活の挨拶もないままに、こっそりとアンドロマリウスの元へ現れた。


 本当は、この時点でシェリルを呼んでおけば良かったのだ。シェリルに正確な情報を与え、待つように言えば良かった。

 悪魔二人はシェリルの知らぬ間に事を済ませてしまおうと画策した。


 もちろん長丁場になる事は読めていた。だから、長い暇をシェリルに乞うたのである。

 フロレンティウスの件が終わったらシェリルの元へ戻る予定だが、なにぶんどのぐらいの期間か分からない。


 アンドロマリウスは極めて冷静に伝えたつもりっだったが、シェリルは混乱した。

 意外な事に、シェリルはアンドロマリウスに執着心を示したのである。


 引き留められたという事実にアンドロマリウスは心の奥底で歓喜した。

 だが、それとこれから行う予定は噛み合わない。己の沸き上がる感情を無視し、己の役割をその身に絡み付かせた。


 彼女の熱から逃げるように冷たくしようとした結果は散々だった。


 遙か昔に少しばかり思った事のある、だが今は全くそうは思っていない言葉をシェリルへと叩きつけ、彼女の声を振り切って塔から出ていく羽目になった。

 売り言葉に買い言葉という言葉が存在しているのはこういう事か、と不自然なほど冷静に納得した。

 自分の胸をかきむしってしまいたくなるような言葉をシェリルに投げつけてしまうとは考えた事もなかった。


 ーーシェリルの欲がロネヴェを殺した。


 全くもって、事実無根である。


 合流したアンドレアルフスとカリスへ向かい、フロレンティウスと面通しを済ませるまでほとんど無言だった。

 落ち着いたその晩、アンドレアルフスに問われた。

 正直に話が拗れたと言えば、彼は怒ってみせ「あたしのお姫様」とまで言った。とは言え、彼が何らかの行動を起こす事はなかった。

 詳細は分からなくとも、アンドロマリウスが後悔しているのに気が付いていたのだろう。


 そして動揺するあまり、この件に関して精神が乖離していた事も、気が付いていたのだろう。

 この時のアンドロマリウスは、ただただアンドレアルフスが後で自分に対して何らかの仕打ちをしてくるに違いないと恐ろしく感じただけだった。


 本当の所、アンドレアルフスはただ愛しい女を案じ、目の前の親友を慰めたかっただけなのに。


 シェリルと揉めてからのアンドロマリウスは、均衡を崩した振り子のように、心の向かう方向を見失い、本来の冷静さを失っていたのである。

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