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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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頭の悪い贈り物

 ふ、と先ほどまでの笑みを消してプロケルはアンドロマリウスへと真摯な眼差しを寄越した。


「シェリルの心配ばかりしているけれど、君自身も結構危険だったのだよ?

 ふふ……でも、これで一安心だ」

 もう少し苦しいかもしれないけれど、と続けると、彼は自分用に用意した器に口を付けた。ゆっくりと嚥下するのに合わせて喉元が揺れる。


 アンドレアルフスの美しさは毒のようなものだが、プロケルの美しさは薬のようだ。

 その美しい所作を見ているだけで苦しみが紛れる気がする。


「ところで、シェリルはどうするつもりなのか、教えてもらっても良いかい?」

「まずは魂の修復、それから手みやげを持って魔界へ連れて行く」


 アンドロマリウスは近くで待機させていた眷属を呼び寄せる。黒い蛇は主に恭しく頭を垂れた。

 アンドロマリウスが手を差し出せば、それは大きく開いた顎門から二つの玉を吐き出した。


「おや、それは……」


 大きい方が少年の魂で、小さい方がヨハンの魂である。

 ヨハンのものが小さいのは、ユリアと分割したからであり、その分割時にヨハンが得た比率が少なかったからである。


 この世界は魂が転生する循環型の世界になっている。循環型の世界には二種類があり、その一つがこの世界と同じく魂がそのまま器を変えていく世界である。

 死んだ時点での魂が新しい器へと移動する為、ヨハンのような大きく欠けた魂はほとんどの場合は転生せずに消滅してしまう。

 一定数減れば神が新しいものを補充する。


 消滅するだけの魂ならば、シェリルの魂を補うのにちょうど良い。ヨハンも彼女の一部になれるのなら本望であろう。

「シェリルの為に命を散らした人間だ。シェリルも拒絶はすまい」

「実に合理的だけれど、嫉妬はないのかい?」

「ないな。ヨハンはシェリルの為に生きていると言った。

 あの男の気持ちを無駄にする事はできない」


 核を預けている間に浸食されてしまった分の魂を補うなら、同じ人間の魂の方が好ましい。不足分のアテはある。

 小さな玉をシェリルに飲ます。玉はシェリルの体内へ収まると形を崩し、たちまち彼女の魂へ吸い込まれていった。

 シェリルの方はと言うと、眉間に皺を寄せている。


 苦虫でも食んでしまったかのようだ。事実、他者の魂なぞ人間が好んで食すものではない。悪魔からすれば美味であるが、それは感覚の差であるし、そもそもヨハンの魂が美味な方ではない事は予想が付く。

 つまり、人間からすれば、ヨハンの魂はまずかろうという事である。


 口直しと言わんばかりにアンドロマリウスはシェリルに軽く口付ける。少しばかりの力を注ぎ込み、ヨハンの魂が馴染みやすいようにする意味もあった。

 シェリルは無意識にだろうが、慣れた味にほっとしたのか積極的にアンドロマリウスの力を吸っていく。


「ヨハンの魂だけでは足りないよ」


 分かっている。アンドロマリウスが考えている不足分を補うものは、シェリルが身に付けている。

「アンドレからの献上品を使えば間に合うさ」

 アンドロマリウスはシェリルの耳飾りを触りながら答えた。


 複雑に組み合わされた檻の中に入っている透明な石は、アンドレアルフスがシェリルの力を使って作り出した無の力の結晶である。

 いざという時に使うようにと渡していたものであるが、シェリルは使わなかった。使う機会はあったのに、使えなかったのである。


 実用的に見えたこの耳飾りには大きな欠点があった。

 それは、簡単には使えない事である。指輪やブレスレットであれば口で割るなりしてすぐに使えるが、耳飾りとなるとそうはいかない。

 まず耳飾りを外さなければならないし、その上この知恵の輪のような籠から取り出さないといけない。

 あの男にしては、珍しく頭の悪い贈り物だった。

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