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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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気が利くプロケルと聖魔酒

「シェリル、魂の損傷が激しいのは分かっているか」

「この、胸を捕まれるような苦しさは……それのせいね」

 少しでも楽になれるよう、シェリルを眠らせる事にアンドロマリウスは決めた。プロケルはその様子を見てると翼を広げ、召還術士の塔へと飛び去った。


「手段はある。今は眠っていてくれ」

「ん……」

 安心しきったような、安らかな顔を見せて彼女は眠りにつく。


 シェリルを抱いたままアンドロマリウスも翼を羽ばたかせて塔へと戻ると、彼が降り立つタイミングでプロケルが塔の扉を開け放った。

 手間なく塔の中に入ったアンドロマリウスは、礼を言う代わりに鼻を鳴らした。


「気が利くな」

「だって、私だもの」


 しれっと答えて颯爽と塔の中を歩くプロケルは、この建物の事を知り尽くしているかのようだった。

 クッションが乗せられた椅子にシェリルを座らせる。彼が勝手に用意したらしいそのクッションは、とても触り心地の良い高価な品だった。

 気味が悪い程に気が利くプロケルに目配せし、その隣の椅子にアンドロマリウスも座った。


「はい。

 これは飲んだ方が良いよ。

 一度死んだ君には必要な事だ」

「……死んではいない」


 プロケルは禍々しいほどにはっきりとした鈍色の液体を器に用意していた。

「用意が良いものだな」

「いつか必要になると思って、皆から少しずつ集めておいたのだよ」

 褒めてくれと言わんばかりに胸を張ってみせる


 それは何人もの悪魔が力を加えて作り出した液体だった。瀕死の悪魔――特に失いがたい高位悪魔――の命を繋ぐ為によく用いられる。

 魔界で作った聖魔酒と呼ばれる、特殊に作り出された水に力を加えたものだ。


 堕天使やプロケルのような存在だけが作る事のできる水だが、天使と悪魔の核を持っているプロケルにとってみれば、この水を用意する事など呼吸と同じくらい簡単だ。


 だから、プロケルの苦労は水を聖魔酒へと変える作業からになる。


 それぞれ力を加えると水の色が変わっていく為、最高級品は漆黒の液体となる。

 漆黒の液体は万単位での高位悪魔の協力が不可欠だと言われており、現在ではほとんど不可能だ。


 その為、アンドロマリウスはそれを一度も見た事はない。が、それには劣るにしてもかなり良い色をしていた。そして量もある。

 こんなに汚らしい色になるには一人二人の力ではなく、大人数の力が必要だっただろう。それをやってのけたのだ。


「千年もかかれば、君の部下だけではなくて友人や同僚の高位悪魔クラスで何周もできるからね。

 人間に捕らわれている可哀想な悪魔の為ならって、皆協力してくれたよ」

「余計なお世話だ」


 アンドロマリウスとプロケルは口先だけの応酬をして、口元を緩ませた。苦労を口にせず、苦労の結晶を何でもない事のように提供してみせるプロケルの“らしさ”が嬉しかった。

 白銀の悪魔が視線で促すまま、漆黒の悪魔は器に口を付ける。液体を一気に流し込めば、鈍色の液体は度数の強い酒を飲んだ時のような、燃え上がる熱さで喉元を襲う。


「ぐ……っ」


 大昔に大戦へ赴いた際、一度だけ聖魔酒を飲んだ事があった。その時は文字通り瀕死だったせいか、全く記憶がない。

 度数の強い酒と比較するのは無意味だった。アンドロマリウスは少しずつ飲めば良かったと後悔しそうになる。

 酒など比にはならない。これは劇薬だ。


 アンドロマリウスは核をその身に戻した時と似たような、強大な魔力を飲み込んだのである。

 これほどの力でなければ、死にそうな悪魔を助け出す事はできないのだろう。そう、アンドロマリウスは納得する。


「一気飲みだなんて、男らしいね」

「くそ……っ」


 涙目になりながら親友を見上げた。

 彼からは、からかっているような雰囲気は見られず、ただ嬉しそうな笑みが広がっていた。

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