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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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核の条件

 プロケルは屈み込んで少年に覆い被さっていた。少年がもがき、彼の腕が虚空を泳ぐ。

 天使プロケルになるかもしれない少年を目の前にして、ようやくアンドロマリウスは少年の天使時代の名前を聞いていなかった事に気が付いた。


 名を知ったからといって何かが起こる訳でもないし、名を使って何かをするつもりはなかった。力が馴染んできたおかげで、昔から従えていた眷属の存在を改めて感じられるようになってきた。

 懐かしい気配に声をかければ、それらは従順にアンドロマリウスの方へと動き始める。


「さて、君は祝福を得られるかな?」


 プロケルの核を無理矢理渡された少年は、白銀の悪魔がその身を解放すると二つ折りになってうずくまった。

 天使だろうが悪魔だろうが自らの属性など関係なく、核を身に取り込めば焼け付くような痛みが襲いかかってくる。

 核に認められれば、その暴れる強大な力は馴染んでいき、その名の特性を得る事ができる。


 認められなければシェリルがそうであったように、ただ身を削るだけだ。


 認められるかどうかは本人の素質や性格がその核に見合うかどうかで大体決まる。あとは本人の意志の強さが多少関係していると思われる。

 アンドロマリウスの核は、真実を見抜き謀略を察する為の観察眼、何事も客観的に捉える冷静さ、曲がった事はしないという強い決意が必要だ。

 同じようにプロケルの核にも認められる為の条件があるはずである。


 核を一時的に預かり、適切な相手に渡す役割を持っているアンドロマリウスは悪魔プロケルの方の条件を知っているが、天使プロケルの方の条件は知らない。

 だから、プロケルがどういう条件の相手を捜しているのかも分からない。


 一つだけ言えるのは、“悪魔のように手段を選ばずに意志を貫こうとする天使”を探しているらしいという事だった。


 この条件だけで言えば、目の前にうずくまる少年は十分に素質があるように思える。

 プロケルは挨拶でもするかのような、雰囲気で少年に声をかけた。


「どう?

 その核をものにできそうな手ごたえはあるかい?」

 歯を食いしばり、鼻で息をする少年を見下ろしている。

 プロケルの質問に答えられそうにないその様子をしばらく見つめ、軽やかな声を上げた。


「……だめそうだね」


 彼の言葉に少年は首を振る。もう少し待て、なのかもう無理、なのかは分からない。

 少しずつ集まってきていたアンドロマリウスの眷属の何匹かがが少年を見上げている。それの視線から見る少年の目は血走り、人間としての限界を迎えようとしている事は明らかだった。


 アンドロマリウスの眷属は主の復活に喜びを感じているのか、どんどん集まってくる。シェリルの上にまで漆黒の蛇が乗っていた。

 シェリルの頬をチロチロと舐め、満足そうに降りていくあたり、ほとんど感情のない彼らなりに彼女の事を心配していたのだろう。


「大丈夫ならそろそろ普通に立てるはずだ。

 残念だけれど、時間切れだよ。

 その核は返してもらおう」


 仕方がない、と言いながら少年に口付ける。こじ開けられた口からは悲痛な呻き声が漏れた。

「うるさいよ。もう少し静かにできないのかい?」

「うあぁ……ぐ、い、うぅぅ……」


 プロケルは世話が焼けると言うかのように少年の額に口付けた。

 少年は苦痛の根源を回収されて落ち着きを取り戻すかと思えば、まだ呻き声を漏らしていた。

2019.10.14 一部修正

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