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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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最後の機会

 体が熱い。内側から燃え上がり、溶けてなくなってしまいそうだ。激痛と熱さにシェリルは自分が元の世界に戻ってきたのだと理解した。

 無理矢理目を開ければ、視線の端に天使の姿となったアンドロマリウスが見える。

 直前まで会話していた記録の彼ではない、本物のアンドロマリウスである。


 記録のアンドロマリウスは何を言おうとしていたのだろうか。流れかしておおよその見当は付くが、聞いてみたかった。

 残念な気持ちと、ロネヴェの目の前でそれが暴露されなくて良かったというほっとした気持ちが入り混ざる。


 焼け付く痛みに悶えながら、この体から外に出ようとする二つの核を抑え込む。

 少し前までシェリルと仲良く会話していたはずの二つの核は、今では檻となっている彼女を壊して自由になりたがっていた。


 良い子だからもう少しここにいて!


 半ば投げやりに心の中で叫ぶ。もちろんそれで状況が良くなる事はなかったが、意外な事が起きた。

 ロネヴェとアンドロマリウスのそれぞれの契約印を中心に、広い範囲ではないが焼け付く痛みが引いたのだ。


 全身を襲う痛みの中、その部分だけが癒され続ける。

 シェリルを守るという悪魔達の契約は生きている。辛い状況に変わりないが、それでも彼女はただこの事を希望としてひたすら耐えた。




 核を手放したアンドロマリウスは、控えめに輝く金糸に透き通った碧の目、白い翼をこれ見よがしに見せつけるようにして、ゆっくりと一歩ずつ少年へ向かい歩き出した。

 シェリルへの天の気による影響が最低限になるのに必要なだけ、少年と距離を縮めた途中で立ち止まる。


 深く呼吸をするように、翼を広げながら完成された結界を探れば、今いる場所が自分達にとって有利な場所である事に気が付いた。


 二つの術式を使って巨大な結界を作り上げている特性上、利点もあれば欠点もある。

 利点は、片方の術式が壊れても結界が完全には破壊されないというものであり、欠点は両方の術式の範囲外に広がる結界の部分は内側からの攻撃に脆いというものだ。

 その理由は結界自体が術式の保護を受けられないからである。


 そして今、アンドロマリウス達が立っている場所は、まさにその術式の範囲外であった。ユリアの妨害を受けなかったら、人気を避けるあまりに片方の術式の中で少年と対峙していただろう。

 ユリアの動きを認める事はできないが、彼女の妨害によって引き起こされたヨハンの死は、決して無駄ではなかったのである。


 アンドロマリウスは改めてヨハンに心の底から感謝し、目の前の少年を見つめたままゆっくりと翼を動かした。

 結界の破壊に、複雑な術式はいらない。ただ、その結界よりも強大な力をぶつければ良い。

 己の中にある力を練り固め、濃くしていく。そしてそれを結界に触れさせる事にした。


 天使が転生した少年とは言え、彼は人間の域を出られない。彼の妨害をほとんど気にせずに作業ができるというのも幸運だった。

 これが天使のままだったら、これほど簡単にはできなかっただろう。だが、彼が人間にならなかったら、これほどアンドロマリウスが窮地に陥る事もなかっただろう。


 いくつもの思惑が重なり、たまたま結果としてアンドロマリウス達に優位をもたらした。この機会を逃す訳にはいかない。

 アンドロマリウスは慎重に、濃縮されて重くなった力をゆっくりと送り出す。立っているだけでも辛くなる程の力を消耗させたが、それを少年に気が付かれないよう、しっかりと彼の顔を見た。


 少年はアンドロマリウスへ何も仕掛けず、ただ睨みつけていた。

 一人の天使が人間の転生を繰り返しながらこの結界を作り出すだけで限界だという事を彼自身もよく理解しているはずだ。


 ――それが破られてしまえば終わりだという事も。


 アンドロマリウスの行為が無駄に終わる可能性に賭け、待っているのだ。

 だからこそ、アンドロマリウスはシェリルと共に生き残る為、可能な限りの力を練り上げたのだった。

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