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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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気の強い支援者

 二人はまず、天使が展開し始めている二つの術式から逃れる事に決めた。

 アンドロマリウスとシェリルがそれぞれ組み立てた結界が張ってあるこの塔がこの街の中では一番安全なのだが、それが二つの術式に耐えられるかと聞かれれば疑問である。


 シェリルは符を取りに、部屋のある階へと階段を駆け上がる。

 シェリルが部屋に入ったのと再び乱入者が現れたのはほとんど同時だった。


「シェリル様、お逃げください!」


 駆け込んできたのはユリアだった。

「何があった」

 アンドロマリウスが問えば、ユリアはシェリルの姿を目で探しながらも早口で答えた。


「街の皆がシェリル様を悪魔の眷属になったと言ってこちらを包囲すると耳にしました!

 その人々の中には、ヨハンまで……っ」


 ユリアの言葉に偽りは含まれていないようだった。彼女の様子に、アンドロマリウスはこれからどうすべきか考え直すしかない。

 とりあえず、興奮の収まらないユリアを座らせて飲み物を渡す。


 鎮静効果のある薬草を少し混ぜた茶だったが、今の状態の彼女に効果があるかは微妙だ。

 その茶を一気に飲み干して、ユリアはアンドロマリウスを睨みつける。


「彼女は今どこに?

 まさかあなたまで!?」

「違うから落ち着け」


 疑念を抱く者から受け取った飲み物を飲むのは失策だという呆れが半分、ずいぶんと気の強い女になったものだという感心が半分。

 前もその気はあったものの、アンドロマリウスに啖呵を切るような真似はしなかった。


 ヨハンと別の体を手に入れ、出産を経験したからなのだろうか。

 人間は面白いくらいに性質が変わる。

 アンドロマリウスはシェリルの気配がこちらに向かっているのに気が付いて振り返った。


「ユリア、どうしたの?」

 シェリルの足取りは重く、外の結界が徐々に確実なものへと変わっているのを知る。

 アンドロマリウスは元々天使だったせいか、まだそこまで影響を感じていなかった。


「シェリル様! 早くここから離れてください。

 私は危険を知らせに来たの」

 ユリアの言葉にシェリルは階段の途中で立ち止まった。

 シェリルの視線はアンドロマリウスへと移る。アンドロマリウスはシェリルに向けて小さく首を振った。


「街の人間が蜂起したらしい。

 その中にはヨハンもいるそうだ」

「一刻も早くここから出て安全なところへ向かいましょう!」

 ユリアは捲し立てた。


「今なら街の人々がどこにいるのか私が覚えています。

 彼らがこちらを包囲する前に移動しないと」

 シェリルはしっかりとした口調で信頼を示すユリアに心強さを感じたのか、先程よりもしっかりとした足取りで残りの階段を下りきった。


 それを見守っていたユリアは中庭へと続く扉の方へと体の向きを変える。

「表は既に見張りがついています。

 私が走りながら塔へ入っていくのも見られているはず……

 彼らは行動を早めるかもしれません」


 シェリルの方は向かずに中庭へ進む。アンドロマリウスはシェリルを支えるべく彼女の肩を抱き寄せた。

「……ユリアがいてよかった」

「どうだかな」

 シェリルのユリアを信頼する言葉が彼に違和感を与えた。


 この状況下、ユリアを疑う気になれないが、子供を産んだ母親が我が子を放って動いている事を不自然に感じてしまったのだ。

 ユリアの、この行動はあまりにも向こう見ずだ。だが、そうまでしてシェリルを助けたいという気持ちの表れであると言われれば納得してしまう程度のものだった。


「マリウス?」

「いや、何でもない。早く行こう」


 ただの気のせいかもしれない。しかし常に最悪の事態を考えながら行動を考えるのがアンドロマリウスの役目だ。それをシェリルに伝えるかどうかも自由だ。

 いずれにしろ、人の少ない場所へ案内してもらえるに違いない。シェリルは裏切られたとしても、きっと守るべきだと思っている街の人間を傷付ける事はできないだろうから。

 アンドロマリウスはシェリルの全てを第一に考えるべく、最悪の事態だけではなく被害が最小で済む可能性も同時に模索していたのだった。

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