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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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作戦展開

 シェリルは少しだけ気を穏やかにして、可能な限り深く息を吸った。

 心なしか息苦しさがなくなっているような気がしたが、いやな予感は変わらない。


「この印自体が何かを引き起こしたりは……しないのよね?」

「ないな。

 あるとしたら、それはその場所に何かが仕掛けられている時だけだ」


 色分けされた光る点をシェリルはなぞる。なぞった所で何かが分かるわけでもないが、シェリルが産まれ、そして召還術士になってからずっと守り続けてきた街だ。

 大切な街を、自分達を排除するという理由だけで天使に干渉され続けている。


 良い干渉だったら構わない。だが、この干渉はこの街の人間の生を歪めている可能性がある。

 シェリルが知っている限り、少なくともこの街の人間二人は死んでいるのだ。


 以前クリサントスが街に二千人程を派兵してきて、彼ら全員と、この街に生きていた少年一人が亡くなった。

 派兵されてきた兵は少年を殺した代償としてアンドロマリウスとアンドレアルフスが殲滅したのだが、それを含めれば、天使の策略によって死んだ人間は数千人に上る。


 天使は人間を導く為であれば、その経過で何人死のうと気にしない。シェリルからしたらおかしな事だと思う。

 それでも天使は結果さえ良ければ人間の死は問わない場合も多い。

 ロネヴェと出会わなかったとしても、シェリルは天使と永遠の契約を交わしたりはしなかったと自信を持って言える。


 そんな天使が、この街で何かをしている。とても恐ろしい事だった。

「……これ、進行中と実行済みの二種類かも」

 シェリルがぼそりと呟く。規則性がないという点で、一つ思いついたのだ。

 どんな状態の場所にあったのかで、アンドロマリウスであれば別の条件を見つけだす事ができるのではないかと考えたのである。


「いずれにしろ俺だったら、という事になるが」


 彼はそう前置きをして、地図に手を翳した。三種類だった印が二種類に変わる。シェリルはアンドロマリウスの早業に目を瞬かせた。

「おおよそは合っているはずだ」


 赤と青の色が、大きな円を二つ描いていた。

 そして、その二つの円両方に入るようにして召還術士の塔が入っている。


「これ……」

「見回った時に術式自体は感じられなかったが、何かありそうだな」


 アンドロマリウスの言葉にシェリルは頷いた。

 もし、この円が術式であるとしたら。

 これだけの大きさである。簡単なものではないに違いない。


「確かめに行きたい所だが、そんな時間はくれないらしい」

「え?」

 アンドロマリウスは立ち上がり、シェリルに背を向けた。その瞬間、勢いよく扉が開いた。


「シェリル、無事か!」


アンドレアルフスが髪を乱しながら扉を開けたのだ。

「アンドレ!?」

「天界の結界が仕込まれてる。

 既に動作し始めている。

 結界が完全になったら、俺は耐えきれない」


 アンドレアルフスの顔からは血の気が引いており、真っ白だ。

 シェリルの無事な姿を見てほっとしたのか、先ほどの勢いはどこかに行き、よろよろと二人の方へと歩き始めた。


 シェリルは思わず立ち上がるも、一瞬目の前が真っ暗になり、そのまま動きを止める。

「まだ、あんたは……大丈夫なんだな。

 さすがに、純血種には――」

 力なく、無理矢理笑みを浮かべてアンドレアルフスは倒れた。床に落ちる直前でアンドロマリウスに助けられる。


「早く戻れ。

 お前にはそれができる」

 アンドロマリウスは早口にそう言って美しい悪魔の額に口を付けた。

「力になれなくて、すまねぇ」

「そんな事……っ」

 シェリルが否定の言葉を口にしようとしたが、最後まで出てこなかった。


「良いから戻れ」

 アンドレアルフスは小さく頷いてから力を振り絞って魔界へと還っていく。

 純血種である悪魔が天界の結界に閉じ込められたら、彼の言う通り生きてはいられないだろう。

 心細さと同時に、彼だけでも逃げる事が間に合った事実を目にしてほっとする。


「シェリル、覚悟は良いか」

「ええ。もちろんよ」

 彼が消えた場所を見つめていたアンドロマリウスに問われ、シェリルはしっかりと頷いたのだった。

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