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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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天使の本気度

 少年と別れたアンドロマリウスは、街の外郭付近を歩き始めた。翼を消し、十五歳程度の見た目に変えた悪魔は、ただふらふらと面白い物がないか探している子供にしか見えない。

 先ほど会った綺麗な魂を持つ少年は、十になるかどうかといった風であったが、恐らく、「人には親切を」と親から言い聞かせられて育っているのだろう。


 そうでなければ、ただ街をうろついている、背景に溶け込んでいるアンドロマリウスを見つける事などできはしない。

 さすがに今歩いているような、人通りの少ない場所では無理だが、街の中心に近い場所では彼一人を気にする方が難しいだろう。


 天使との関わりを真っ先に否定したアンドロマリウスだったが、少年の事が頭をもたげてしまい、気になって仕方がない。

 久々に、まともで綺麗な魂を見てしまったからだろうか。


 悪魔には、魂を回収するという仕事がある。だがそれは死に神のようなものではない。どちらかといえば、様々な素材として採取してくる為であったり、時には食事代わりであったりする。

 綺麗な魂は、高純度の無の力でもある。それを何かを生み出す際の素材として使う事は当然の事だ。

 そしてそれを、魔力不足になった時や力を浪費する事が決まっている戦場で食する事も当然の事だった。


 戦場で力を揮う事があったアンドロマリウスは、よく魂の回収を仕事の一つとして持っているプロケルから譲り受けていた。

 プロケルが持ち込む魂の純度はいつも高く、アンドロマリウスは舌を巻いたものだ。


 天使の姿をとっている彼は人間受けが良いらしく、すんなりと魂を譲ってもらえるのだと笑っていたのを思い出す。

 あの少年も、プロケルが現れたら魂を自ら渡してしまうのだろうか。

 不審な物を何一つ見つけられず、魂の事が頭をぐるぐると回っていた。


 シェリルを安心させる要素を早く見つけたいが、なかなかうまくいかない。はやる気持ちを抑え、アンドロマリウスは街をさまよう。

 何も見つからないはずはない。策略を嗅ぎ取るのがアンドロマリウスの核が持つ能力だ。


 なのに、どうして見つけられない。


 見つかるのは、天使が行った形跡だけ。それも天使側の成果を見せられる。もどかしかった。

 いつだってそうだ。天使の方から仕掛けてくる。大義名分を振りかざして、争いの火種をつけるのはいつだって天使だ。アンドロマリウスがアンドロマリウスでなかった頃、既にその構図は完成していた。


 言いがかりも甚だしいと感じてしまったアンドロマリウスは堕天を決意する事になる。神を恨む気持ちはない。ただ、同族に対する嫌悪感が少しだけ強かった。

 己が正しいと思えば、残されている天の力を使う事も厭わない。天使の考え方が嫌いなだけだから、使える力ならば有効活用するまでだ。

 いっそ、プロケルではないが、天使になったつもりで周りを見た方が――


 ふつふつと沸き上がる天使への嫌悪感と共に、ある考えが浮かんできた。天使が仕掛けたものが、彼らにしか分からなくなっている。

 もし、それが悪魔には見えないとしたら?


 アンドロマリウスは躊躇う事なく、己の右目に二本の指を突き刺した。刺した指を曲げて眼球の奥にある鎖ごと引き抜いた。強烈な突き刺す痛みに視界が真っ白になる。


 空洞になり、窪んだ穴の上を瞼が覆う。失った右目へと天の力を集中させて眼球を再形成していく。悪魔の肉体に天使の肉体。相性は悪いが、この天の力は己の中にあるものである。

 他者の力を借りるよりは安定するはずだ。じりじりと焼け付くような感覚が続く。瞬きをすれば、両の眼から似て非なる情報が入ってくる。


 天使には、天使にしか見えない印を残す事がある。アンドロマリウスは、たかが一人の人間と数体の悪魔相手に、天使が戦争と同等の情報戦を行おうとするとは考えていなかった。

 虫一匹にも全力を投じなければ勝てないと、今までの経験から天使は学んだのだ。何体かの天使の印が残されている。

 それだけ今回、本気度が違う事を理解した。

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