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贖う者  作者: 魚野れん
第十七章 贖う者
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依頼人の理想の形

 シェリルを頼る人間が減ってきた。この調子で行けば、きっと一月もしない内に誰も来なくなるだろう。悩み事を言う人も、どうでもいいような内容のものもあったが、最近は本人ではもうどうしようもない、悪魔に魂を売るつもりくらいに切迫した事ばかりになっていた。


 シェリルは完成した薬を手に考え込んでいた。

 昨日相談しにきた人間は、重い病に患ってしまった親を楽にさせてやりたいという内容だった。

 病について深く聞いていく内に、治らない病気ではない事に気が付いたシェリルは薬のようなものを処方してやる事にした。


 薬草を数種類に特別な加工を施す。特別な加工とは、精霊の祝福である。アンドロマリウスに塔から出ていってもらい、精霊を召還する。

 今回召還したのは、癒しの力とを持つ精霊である。削られてしまった生命力を補う為だ。


 病の原因である毒を追い出すのは薬草の役割であるが、削られた生命力を復活させる事は難しい。毒を追い出しても体力がなければそのまま衰弱して死に至る。だから、精霊の力を借りるのだ。

 シェリルは召還した精霊に、この薬へ祝福をしてくれと頼み、その礼として精霊の望むものを与える。この精霊が好むものは花の蜜である。


 事前に庭に咲く花々から蜜を集めておいた。この蜜を集めたのはもちろんシェリルである。

 悪魔が少しでも触れれば、精霊は気付く。精霊は天界寄りである為、悪魔の気配に敏感だ。察して祝福以外のものを与えられては困る。


 シェリル自身もしっかりと禊ぎをした上で召還に臨まなければならず、薬を作るよりも仕上げの方が手間だった。とはいえ、これはこの街ではシェリル以外にできる者はいない。

 彼女以外にこの相談者の親を理想の形で救い出す事はできないのだ。


 理想の形、というのには理由がある。

 依頼者である彼の楽にして欲しいという言葉には、病気を治せないのならば、楽に死ねる薬が欲しい、という意味が込められていた。

 シェリルはその気持ちを汲んだ上で、何ができるのかを考えた。


 その結果がこの薬である。シェリルは使いを呼んだ。この薬を依頼者へ渡してもらう為である。というのも、外出を控えているからだ。

 あまり良くない噂とこの前の干ばつでの不安が街の人間を煽っている。特に、今まで干ばつなどなかったこのカプリスはエブロージャ――恵まれた土地――と呼ばれる程に水に恵まれていた。その水が一時的とはいえ干上がったのだ。


 水に不安を感じる事なくずっと生活してきて、そしてこれからも心配はないと思っているこの街の人々に大きな影を落としてしまった。今までにない大きな恐怖を感じたであろう彼らの、シェリルへの信頼が揺らぐのも仕方がない。

 別にシェリルがいるから恵まれている訳ではない。シェリルが産まれた時から既にここは恵まれた土地であった。


 だが、人は誰かにその原因を求めてしまうものだ。


 この街を守り続けているのはシェリルである事は間違いない。それが分かっているからこそ、シェリルを原因にしたいのだ。

 それで彼らが安心できるのならば、この街を出て行くかこの塔から一歩も出ないで刺激しないようにするしかない。


 シェリルはこの街から出て行く気はなかったし、彼らとの関係改善に努める気もなかった。

 どうせ十年ほど経っても大きな事が起きなければ彼らも安心して勝手に信頼が戻ってくるだろう、というのがシェリルの考えだ。

 だから、アンドレアルフスからアンドレの一族を借りている。必要があったら呼び出し、使いを頼むのである。


 呼び出してからあまり時間をおかずに使いが現れた。彼女に薬と使い方のメモ書きを渡し、誰に渡して欲しいかを伝える。

 使いはただ頷いて外へ出て行った。

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