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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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魔力の枯渇からの回復

 思う事がない訳ではないが、口を出す事の程でもない。これはアンドレアルフスの問題だ。彼の所有物である一族の事をとやかく言う気はなかった。

 アンドロマリウスは双子から視線をずらしてシェリルを見る。もう彼女の顔色は悪くはない。外に出て元気だと振る舞う程度には回復したようだ。


「シェリル様、戻られてからすぐにお会いできると思っていたのに……数日経ってもいらっしゃらないから心配していたんですよ?」


 責めるような口調のユリアに、ヨハンが苦笑する。

「ユリア、シェリル様は悪くないだろう。

 お前がとても心配していたのは僕が一番理解しているけど、それを押しつけちゃいけない」

「……そうね、そうだわ。申し訳ありませんシェリル様」


 シェリルがすぐに双子に会いに行かなかったのは理由がある。

 行かなかったのではない。行けなかったのである。

 むすっとしているユリアだけを軽く抱きしめながら、彼女に言い聞かせるようにシェリルが話し始めた。


「ちょっと無理しちゃって、しばらく寝込んでたんだけど、もう大丈夫」

「こんなに休息を必要とするなんて、どんな無理をされたんですか!」


 どうやら双子になった時、気性の荒い部分はユリアが全て引き受けたらしい。息巻くユリアの眦はつり上がっていた。

「ただ怠かっただけよ」

 肩をすぼめて軽く言って誤魔化したシェリルだが、実際はかなり厳しい所までいっていたのをアンドロマリウスは知っている。


 アンドロマリウスと浴場でのひとときを過ごして一息ついた後、シェリルは彼に力を分け与えた。

 不足分だけを補おうとしたようだが、アンドロマリウスの力はシェリルが思っている以上に欠けていた。

 シェリル本人が考えている以上にシェリル自身も消耗していたのもある。


 シェリルがアンドロマリウスに力を注いだ途端、彼女の力は底を突いた。

 力のない人間もいるくらいだから、普通の人間が魔力の底を突いた所で、貧血になって突然倒れるのと同じ程度の事である。


 だが、シェリルは違う。召還術士である。

 彼女が人間の理を大きく逸脱しているのは、魔族との契約のせいだけではない。力の巡る量、肉体を支配する力の量が違うのだ。


 魔族と契約しなくとも、召還術士等の術士と呼ばれる人間の寿命は長い。普通の人間からすれば、寿命などあってないようなものに感じてしまうだろう。

 それを実現させているのが力である。それがどこの世界の属性を持つかによって変化するだけで、魔力だとか神力だとか呼び方は様々でも、元は同じなのだ。


 つまり、力の大きい人間は生命を維持する為にもこの力が使われている。ただの体調不良で終わる訳がない。力の枯渇は生命維持に問題を来す。

 分かりやすく言うなれば、シェリルは干からびて死ぬ所だったのである。


 シェリルの状態に気が付いたアンドロマリウスは慌てて力を返した。とはいえ、アンドロマリウス自身も彼女を守る為に必要な力が不足している。

 シェリルには死なない最低限だけ返し、後は自然に任せる事にしたのだった。


 結果として、シェリルは自分の中にある力がある程度戻ってくるまで安静に過ごさざるえなくなり、アンドロマリウスも余計な事に巻き込まれない為に塔に閉じ籠もる事となったのだ。

 シェリルが何度も心配する程の事ではないと言い続けると、ようやくユリアは納得したらしい。以前と変わらぬ笑顔に戻った彼女にシェリルはほっとした様子を見せていた。


 ユリアの隣に立つヨハンはどこか余裕のある態度で、アンドロマリウスは逆に不思議に思う。シェリルの事に拘りを持っていると思っていたが、実際はそうでもなかったのだろうか。

 執着にも似た感情をぶつけてくる事もあったのに、不思議である。それとも、その執着は双子に分かれた時にユリアへと全て行ってしまったのか。


 魂の大半がユリアにあるという事を鑑みれば、人間として希薄になってしまった可能性もある。

 シェリルに害を成さないのであれば、別にそうなっていたとしても問題はない。そう考えて彼らを放置した事を、アンドロマリウスは近い未来に後悔させられる事となる。

2020.5.15  誤字修正

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