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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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プロケルとの契約解除

「良くやった」

 そう、もう一度告げてフロレンティウスはテーブルに置いてあった杯をあおぐ。

「お前達の情報収集能力は中々であるな」

「いや、今回は特別だ」

 上機嫌なフロレンティウスの声を遮るように口を挟んだのはアンドロマリウスだった。


 今、アンドレアルフスにはシェリルの術がかかっていない。

 フロレンティウスは書簡を受け取る時にアンドレアルフスの状態に気が付いたのか、殆ど三人がいる方向を見ようとはしなかった。


「以前関わりのあった魔物がこちら側に現れたから状況を確認したかった。

 自分に降りかかってきそうな火の粉は、率先して払いのけるだろう?」

「……なるほど」

 かの賢皇は悠然と頷き、それからゆっくりと手を振って三人を追い出した。




 次にプロケルが作り出した扉をくぐると、そこは召還術士の塔だった。戻った途端にアンドロマリウスが人数分のハーブティーを用意し始めた。

 シェリルが天使と悪魔それぞれに椅子をすすめ、自らも席に着く。


 小さなミャクス達は、天使と悪魔が同時にいるのが気になっているのか、はたまた見知らぬ存在に警戒しているのか姿が見えない。

 時短したのか、アンドロマリウスが飲み物を用意し終えるのは早かった。青い色をした美しい液体に、シェリルは顔を綻ばせる。


「うん。良い色」


 鮮やかな見た目とは裏腹に、殆ど味のないマルヴァには蜂蜜を加える事が多い。シェリルはアンドロマリウスがちゃんと蜂蜜を加えている事を一口含んで確認した。

 ほっとする甘さがシェリルの喉を優しく潤していく。


「シェリル」

 プロケルがすっと立ち上がる。シェリルはカップを置いた。

「プロケル、色々とありがとう」

「いいえ。召還された者の義務を果たしたまで」


 彼は恭しくシェリルの足下に膝をついた。そしてゆっくりと頭を上げた。彼のつり目がちな琥珀色の瞳が光る。

「少し報酬をいただくよ。

 契約はそれをもって完了とさせてもらおう」


 シェリルにそれを拒否する由もない。頷いて印の浮かんだ手を出した。天使はその印へと口づけ、額をつける。

 召還術士と天使の間に風が吹き抜けた。


 無風であるはずの室内で発生した風は、シェリルからプロケルへと力が受け渡される際、何らかの反応が起きたせいだろう。

 実際、シェリルの眉間には皺が寄り、彼女の表情も固く変化していた。


「やはり、辛いようだね。

 ではシェリル。また会おう」

 彼は優しくシェリルの頭部を包み込むようにして抱き、囁いた。プロケルの意味ありげな挨拶に、シェリルは更に眉間の皺を深くする。


「もう一度、おまけの祝福をあげておこう」

 天使はシェリルの額に口づけを与え、更に両頬へと軽く口づける。シェリルは自分の身体が唐突に軽くなった気がした。

 シェリルの様子にプロケルは軽く笑い、頭を撫でる。


「ふふ、君の頑張りを期待しているよ」

 アンドレアルフスやアンドロマリウスの存在を忘れているかのように、シェリルにだけ挨拶をして彼は消えていった。

 いつの間にかシェリルの手の甲に刻まれた印は消えていた。

2019.10.12 一部修正

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