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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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天使の戯言

「プロケル、さっさと契約を解除しろ」

「そうだそうだ」

「アンドレ!」


 アンドロマリウスの低い声に、柔らかなテノールが加わった。シェリルは反射的にアンドレアルフスの名を呼ぶ。

 アンドロマリウスとプロケルの翼で視界が塞がっていて分からないが、恐らくその向こう側にはこちらへ歩いてくるアンドレアルフスがいるはずだ。


「もう大丈夫なの?」

「悪かったな、シェリル。十分休ませて貰ったから大丈夫だ」


 少しずつ声が近づいてくる。シェリルはほっと息を吐いた。

 血を媒介として力を分けたものの、結局気を失うようにして眠ってしまった彼を心配していたのだ。


 いかに強いと言っても被召還者の立場となるべき所を非召還者としてこの地に立っている彼だ。魔界にいる時とも、被召還者として異世界にいる時とも違う状況にある。

「俺がふがいないからこいつを呼んだんだろ?

 すまなかったな」


 シェリルに罪悪感を与えないように謝罪の言葉を適当な軽口として済まそうとする。そんなアンドレアルフスの気遣いに、胸を撫で下ろした。

 しっかりと軽口が言えるなら大丈夫だ。アンドロマリウスのプロケルとは反対方向の肩にアンドレアルフスの顔が覗いた。顔色も良い。


「アンドレ、ありがとう」

「そうだ。こいつらがついて来ちまったんだが、どうする?」

「え……?」


 視線を感じて足下を見れば、美しい色が広がっていた。ピュレンシスの鳥達である。

 我先にとシェリルの身体へ額を押しつけ、彼女に親愛の行動を取ってくる。

「おや、好かれているね」

「何だこれは」


 アンドロマリウスから離れ、プロケルは鳥を一匹胸に抱く。その表情は穏やかで慈しみに溢れた正に天使の顔だ。

 シェリルは改めてプロケルが天使として現れたのだと実感する。

 黒衣の天使に抱きしめられた鳥は大人しくしている。


「岩みたいな奴、ピュレンシスをキメラみたいに合成したものだったんだ。

 それを俺が鳥に変化させたんだよ」

「それでこんな色に……ね」


 プロケルが頬ずりをすれば、鳥は嬉しそうに目を閉じた。魔物を使って悪魔が生み出した動物は、ただの生き物という事か。

 命を作り出す術は、かなり難しいはずだ。アンドレアルフスの恐怖を感じさせる力だけで事足りると思っていたシェリルの浅はかさが恨めしい。

 そんな提案さえしなければ、アンドレアルフスはこの命を変化させる術を使わなかっただろう。


「あんたにも懐くのか。こいつは人懐こいんだな」

「ふふ、可愛い」

 プロケルの美しい笑い声が鳥のさえずりのように聞こえ、シェリルは彼を見つめた。


「アンドレの命を削って作られた命、美しいと思わないかい?」

「えっ」


 シェリルはその表情を見て固まった。恍惚、と表現した方が良いのだろうか。天使の笑み、に見えなくはない。

 いや、本来天使とはこういう存在だった気がしてくる。

 自分、あるいは神が定めたルールに沿って生きる天使は、いつもシェリルの理解の範疇を越えている。


「美しい。最高だ……」

「気持ち悪い事言うなよな」

 抱きしめられた鳥は相変わらず幸せそうにしている。アンドレアルフスの方は足下をうろつく一羽を確保して自分の背後に隠した。


「俺を挟んで変なやりとりをするな。

 プロケル、もうシェリルの用事は済んだんだ。

 契約を解除してさっさと帰れ」

 アンドロマリウスがとうとう口を開いた。


 彼らの会話が落ち着くまで待つなんて、とシェリルは思ったが、プロケルとは久々の再会でもある。少しでも長く一緒にいたかったのかもしれない。


「もう良いのかい?」

「シェリルの負担だって考えろ。

 こいつはしれっとしているが、少ししたら倒れると俺が保証する」

「何その自信。相変わらず君は面白い」


 シェリルは失礼な、と文句を言いたかったが黙っていた。折角だ、友人との時間を邪魔したくはなかった。

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