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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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天と魔の共存

「知りたいのかい?

 そんなにたいそうな事ではないのだけれど」

 アンドロマリウスの背後から覗き込まれる。好奇心を纏った天使は琥珀色の瞳を瞬かせていた。

 シェリルが頷けば、プロケルは簡単に出来事をまとめた。


「私の剣を刺して固定した所で、ハドルグとレンデレをそれぞれ元の場所に戻したのだよ。

 ね? 何も難しくもないだろう?」

「言うだけなら……」


 ハドルグとレンデレの二体と直接やりあう事なく全てが終わった為、シェリルにはあの二体がどれくらいの硬さを持つのかは分からない。

 だが、そう簡単に剣で突き抜ける程柔らかくはないだろう事は想像がついた。


 細い剣とはいえ、シェリルどころかアンドロマリウスの身長も軽く越えているのがその証拠だ。どこかの家の柱でも持ってきたのかと勘違いされそうな大きさである。

「その剣、何本も作れるの?」

「君の協力があればね」

「……」


 シェリルは思わず口を閉じた。


「ふふ、君の力は刺激的だったよ。

 魔界のスパイスが濃くてどうしようかと思ってしまうくらいには」


 やはり天使プロケルとの相性は悪いのではないだろうか。力を受け取る側にも負荷がかかるのは良くない。

 そもそも、本来は両者に負担がかかる事はない。負担がかかるとしたら能力以上の存在と契約してしまった時である。


「私も今までにない負荷が来たわ……」

「当然だろうね」

 軽く同意され、一体どういう事なのかと顔を上げれば、じっと見つめられる。


「分からないのかい?」


 分かって当然、という事か。シェリルは可能性を探り始める。召還術士であれば、天も魔も精霊も関係ない。契約し、力の相互関係を築く事には何の障害もないはずだ。

 現に、シェリルはアンドロマリウスとの契約を保有している間にプロケルとの簡単な契約を結ぶ事ができている。

 つまり、契約に関わる部分ではなく、その他の部分という事になる。


 力の繋がりについてシェリルには一つだけ気になる事があった。シェリルはアンドロマリウスと繋がっている状態を維持してプロケルと力のやりとりをした事になる。

 ついこの前、天使から力を奪い取った事がある。あの時はシェリル一人で天の力を変換し、悪魔二人へと力を渡そうとした。だが、想定外の反発があり、アンドロマリウスの手助けが必要だった。

 天の力を直接受け入れる事はシェリルには難しかったのだ。


 それはロネヴェとの契約印が未だに残っている事やアンドロマリウスと契約している事、そしてアンドレアルフスとも繋がりを持っている事によって魔界への親和性が上がっていたからだった。

 と、シェリルは考察していた。


「……もしかして、マリウスと繋がっていた、から?」

 よくできました、と言うようにプロケルはシェリルの頭を撫でた。

「シェリル、君は自分が思っている以上に魔に寄っているのだよ。

 だから私の祝福で緩和させても、私への力の供給に負担がかかったのさ。

 それでも気絶しないでいられるのは、ひとえに君が優秀だからだろうね」


 褒められているのだろうが、シェリルはあまり嬉しくなかった。それどころか、天の属性を持つ存在を召還する事にリスクが生じているという事に軽い衝撃を受けていた。

 器の汚染――クスエルがそう表現していた。あの時は全く気にしていなかった言葉が甦ってくる。


 別に天の属性を持つ潜在を召還する予定がある訳ではない。だが、いつか必要な事態が訪れるとも限らない。

 なにより、自分が召還できない存在がいるという事がシェリルのプライドに小さな傷を入れた。


「強い精神力、そして大きな器に召還術士としての素養……

 普通の人間であれば、あの剣を顕現させるどころか本人がミイラになってしまうよ」


 プロケルが続けた言葉にシェリルは悪寒が走る。

 冗談じゃない。思わずシェリルはミイラになる自分を想像してしまい、顔をしかめた。

 冗談なのか本気なのか分からないプロケルの発言は続く。


「君は知らないのだろうけれど、天と魔の同居は難しくてね。

 私だって同じように制御しきれる存在と出会った事はないのだよ。

 君は運が良かった。すぐに回復できる程度の苦しみで済んだのだから」


 天使はにっこりと微笑んだが、シェリルには悪魔にしか見えなかった。

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