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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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力の繋がりがもたらす安心感

 ひんやりとするプロケルの指が気持ちいい。シェリルはそんな事を思いながら消えていく何かを見つめていた。

 首の長い鳥類のように首をもたげるプロケルの影が徐々に大きくなる。赤い池も近づいてくる。

 いつの間にかプロケルは地上へ向けて降り始めていたようだ。


 飛び跳ねていたシェリルの心臓は落ち着いてきている。プロケルがシェリルの力を使うのにこれほどの負担がかかるとは思っていなかった。

 アンドロマリウスやロネヴェへ受け渡す時には感じた事のない、息苦しさを感じたのは想定外だった。


 召還術士であるシェリルには寿命という概念があまりないが、寿命が縮まったという言葉が頭に浮かぶ程の苦しみである。

 プロケルとの契約内容のせいなのか、はたまたプロケル自身の問題なのか、シェリルとプロケルの相性が悪いのか、シェリルには分からない。


 とにかく、これが終わったら天使プロケルとの契約は二度とすまい、とシェリルは心の中で強く誓ったのだった。

 巨大な龍は身を丸めるようにして赤い池の側に降り立った。そのすぐ隣に、シェリルの側にアンドロマリウスが空で待機している。


「来い」

「……シェリル、動けるかい?」

 アンドロマリウスがシェリルを受け取ろうとしているのを察したプロケルは指を開いた。開いた指の一本に身体を預け、抱きしめるようにしているシェリルがもぞもぞと動く。


「ちょっと、いや……かなり、反動が」

 シェリルは低いかすれ声でゆっくりと口にする。プロケルとの協力はシェリルを疲弊させていた。

 白銀のカーテンが広がっていて彼女の表情は見えない。


「ふふ、シェリル。くすぐったいよ。

 そこは私の手のひらなのだから……」

 ゆらゆらとプロケルの尾が揺れる。長いそれは近くの木々を何本か倒していく。

 大きな音にシェリルが驚いて振り向いた。が、プロケルの身体が邪魔で何も見えなかった。


「――手を貸してやろう。

 天使のくせに森林を破壊してやるな」

「ごめん、後でちゃんと戻すよ」


 含み笑いをするプロケルの手に足をかけ、アンドロマリウスはシェリルを肩で支える。彼の指を抱きしめていたシェリルはアンドロマリウスへと支える相手を乗り換えた。

 アンドロマリウスは少しだけほこりっぽく、それでいてしっとりと温かい。


 二体を相手に奮闘したのだろう。ケルガは汚れていたし、彼自身は珍しく汗ばんでいた。

 シェリルはアンドロマリウスの首に顔を埋めた。すん、と鼻を鳴らしながら彼の存在を確かめる。力の繋がりを保っているせいか、近づけば近づくほどほっとする。


「プロケルが残りの二体を送り還してくれた。

 もう大丈夫だ」

「うん」

 アンドロマリウスはシェリルの太股の下に腕を通して持ち上げる。横抱きにしてプロケルの手から飛び立ち、すぐ近くに降りた。


 手から二人が離れたのを確認したプロケルは人型へと戻り、召還された時と同じ天使の姿を取った。彼はすぐに大地へは降り立たず、先ほど不注意ではり倒した木々の方へと向かう。

「さっきは悪い事をしたね」

 そう一声かけてあっという間に元へと戻してみせた。


 ひとしきりアンドロマリウスの存在を確認したシェリルは赤い池へと視線を向けた。赤い池はただの血だまりで、そこには細長い剣が刺さっていた。

 よく見れば、それは剣身だけではなく全てが透き通っている。

 剣身は赤く汚れている。ハドルグやレンデレの血だろうか。

 だとしたら、昆虫標本を作る針のようにこの剣が使われたのか。シェリルは突然上空に現れた剣に貫かれる姿を想像して、そっと目を閉じた。


「どうした?」

「……あの二体、もうここにいないって、一体何があったの?」

 少しの間に決着がついてしまい、その間シェリルは体の不調と戦っていて見る事ができなかった。

 体調が戻りつつある今、想像はできるが、実際に何があったのか、どうだったのか対処方法が知りたいという気持ちが湧き上がってきたのだ。

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