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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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天使との対話

「大丈夫、警戒しないでシェリル」

 シェリルの心を読んだのか、プロケルはゆっくりと誤解を解いた。

 目の前にしゃがみ込み、視線を合わせてくる。


 そして日中とはいえ召還時にずぶ濡れになって冷えてしまったシェリルの頬に触れ、彼女の体についた水気を一瞬にして吹き飛ばした。

 うっすらと寒気を感じ始めていたシェリルは小さく息を吐く。


「……私の親友が使い物にならないようだね」

 立ち上がったプロケルが視線を逸らした先にはアンドレアルフスが眠っている。

 使い物にならないという表現はどうかとシェリルは思ったが、親友だからこその物言いなのかもしれないと思い直す。


「アンドレの事、無理をさせてしまったの。

 マリウスは他のを相手にしててここにいないわ」

「彼が望んで動いた結果なのだけれど、君は優しいね」

 美しい天使はゆっくりとシェリルの頭を撫でた。疲労感が飛び、体の芯が温かくなる。

 こんなにも穏やかな気持ちになれる天使は初めてだった。いつも自己陶酔型の天使にばかり出会うせいだろう。


「時間がなさそうだから、まずは君の疑問に答えてしまおうか」

「え?」

 まだ疑問も何も口にしていない。希望すら伝えていない。だが、この天使は何もかも理解しているかのようだった。

「私が天使の方で応じたのは、その方が都合が良さそうだったからだ」


 シェリルに向けて手を伸ばす。そっと彼の手のひらに乗せればしっかりと握られて引っ張られる。勢いづいてプロケルの胸に飛び込むような形になってしまったが本人は気にしていないらしい。

 むしろそのままシェリルを抱きしめた。

「元気そうで良かったよ。そして私を喚んだのは最善解だった」


 ほっとしたような息がシェリルの耳元にかかる。得体の知れない安心感がシェリルを満たす。

「……ロネヴェが死んだ原因で、名持ちの悪魔二柱をこの世界に繋ぎ止めているような人間に、そんな事言って良いの?」

 折角優しい言葉をかけて貰ったというのにシェリルの口から出てきたのはその一言だった。


 皮肉ではなく、ただの感想である。

 親友を失う元凶に対して、どうしてこの悪魔達は守りの態度を取り、優しくしてくれるのか未だに理解できなかった。


「ロネヴェの事は悲しく思う。

 だが、悪魔的には……その事は君を恨む事に繋がらないのだよ」

「……」

「人間には理解しにくいのかもしれないね。

 私達はロネヴェを失ったけれど、彼の気持ちを守る事によって……彼自身を守りきれかった自分達の罪を購おうとしているのだ」


 密着していた体を少しだけはなし、プロケルは小さく距離を取った。種族の差を盾に拒絶されたと感じる。先程の安心感がゆっくりと消えていく。

 それ以上に気になったのが一つ。


「自分達の罪、って」


 シェリルは喉を鳴らした。ロネヴェの件は、全てシェリルとロネヴェが悪い。死ぬ事を前提に偽りの日々を送っていたロネヴェと、その事に疑問も感じず真実の日々だと思っていた自分。

 周りにいた悪魔達は分かっていた。

 でも、止められなかった。ただそれだけだ。悪魔達は悪くない。


 ロネヴェを奪ったアンドロマリウスを、殺したい程憎いと思っていた日々は終わってしまった。真実を知ってしまったからだ。

 誰かのせいだと責める事もできず、手を下したアンドロマリウスを恨む事もできなくなった。自分は騙されていたと言われ、自分の感情の在処を見失いそうにもなった。


 それらもロネヴェが始めた事の結果であり、悪魔達は関係ないはずなのだ。


「君には関係ない事だ」

 すっと引き戸を閉じられた。慈しみすら感じそうな程の穏やかな雰囲気は消え、変わりに挑戦的な視線を投げられる。


「さて、私と契約する容量を持っていない君は……一体どうするつもりなんだい?」

 冷ややかな唇にかすかな笑みを感じ、シェリルは冷静さを取り戻す。

「今のあなたとなら、短期契約は可能よ」


 シェリルの言葉は見栄でも過信でもない。眉を上げ首を傾げる彼に、付け足す。

「あなたが悪魔だったら無理だったけど」

 それを聞いたプロケルは満足そうに笑みを浮かべたのだった。

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