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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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助けを喚ぶ召喚術士

 どれくらい休んだのだろうか。シェリルは重い瞼をゆっくりと開いた。アンドレアルフスの膝の上に乗り、抱き合うようにして休んでいたせいか背中から腰が軋んでいる。

 背中の筋肉を動かして緩めたいと思ったが、身動ぎしてしまえばアンドレアルフスの休養も終わってしまう。シェリルは我慢する事にした。


 彼の肩の線をなぞるように視線を移動させ、それは首筋で止まった。体を動かさずに視線だけを移動させる事は、存外に辛い。

 シェリルはすぐに目を閉じた。


 目を閉じたままにすれば、楽になれる。


 そんな甘い予感がシェリルを包む。とてつもない誘惑だ。しかしシェリルはそれを振り切るようにして目を開いた。

 数回瞬きを繰り返し、今度は反対方向へと視線を動かしていく。


 目に入ってきたのは鮮やかな赤と黒。ピュレンシスの鳥である。彼らはくつろいでいた。

 毛繕いしていたり、ゆったりと眠っていたり、主を起こさない程度に自由に過ごしている。

 見れば見るほど美しい鳥であった。


 赤い翼はゆっくりと動かされている。邪魔者のいないこの場所は楽園のようだ。

 この穏やかな空気のまま、まどろんでいたらどんなに幸せな事か。


 つぶらな瞳を瞬かせてシェリルを見つめてくる鳥から目を背ける。

 休んでいるアンドレアルフスには申し訳ないが、いい加減にアンドロマリウスの所へ行かなくては。


 シェリルがアンドレアルフスの腕の中から抜け出しても、彼が目覚める気配はない。それ程までに消耗しているのだろうか。

 そうであるならば、残り二体はアンドレアルフスを除いた二人で対応するしかない。


 ――シェリル一人でどちらかを倒す。


 とてつもない難題であった。いつも二人には無理ばかりさせて申し訳ないという気持ちが大きくなる。

 本当であれば、こんな面倒な事をしなくても良いはずだ。シェリルと関わっているからこそ、巻き込まれているのだとしか考えられなかった。

 そう考え込んでいる内に、彼女の眉間には深いしわが生まれていた。


 自分達では対処しきれない。そんな時に思い浮かんだのはある悪魔の名だった。

 二人と共通の親友である彼ならば、面識のないシェリルの呼びかけに応えてくれるかもしれない。


 こうしている間にもアンドロマリウスは二体の魔物を引き付けてくれている。アンドレアルフスがぐったりとしている今、試してみる価値はある。


 岩のへこんだ部分に川の水を入れ、己の血を数滴垂らした。その水で持ってきていた筆を濡らす。

 力が込められた即席インクの完成である。


 シェリルは召還用の印を思い出しながら、彼について知っている情報を頭の中で纏めていた。召還の文言は召還術士が考える。

 対象が召還されても良いと思えるような文言を考える事が重要であった。


「偉大なる美しき公爵よ。

 水を導きし者、氷結の悪魔よ」


 召還印を書き上げたシェリルは、詠唱を始めた。水と血液で描かれた術式の寿命は短い。

 早く喚ばなければならないのだ。


「天使であり悪魔であるプロケルよ、そなたが同胞の危機を救い賜え」

 シェリルの言葉に呼応するかのように、召還式に光が宿る。


「我が名はシェリル。

 アンドロマリウスを捕らえし者なり」


 シェリルの髪がふわりとなびく。召還式の光は彼の悪魔の属性を示しているのか、流水のごとくうねり始めていた。

「知識に富み、与える者よ。我に力を貸し賜え」

 普段よりも透明感のある光が柔らかに跳ねる。


 シェリルは自分の召喚術の成功を確信した。

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