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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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等価の変化

 アンドレアルフスが触れている部分からぼろぼろと土塊のようにピュレンシスの腕が崩れ始めた。シェリルはアンドレアルフスが行おうとしている事に気が付いた。

 アンドレアルフスには、いくつかの知識を与えるだけでなく、ある能力を持っていた。


 アンドロマリウスが隠されたものを探し出す能力に長けているだけではなく、策略に対する鼻が利き、陥れようとした者を罰する事があるのと同様であった。

 彼の場合、それは人間を鳥へと変える能力である。本来は、知識を与えた者がそぐわない場合や彼を怒らせた者が施される。


 この術をキメラとなったピュレンシスへと行おうというのである。

 今のピュレンシスは複数の生命体によって成り立っている。それを鳥へと変えるのは、かなり困難なはずだ。

 というのも、元々人間を犠牲にして一人の人間を鳥へと変化させるものだからだ。


 一つの個体を変化させる為には、一つの犠牲が必要である。つまり、複数の生命体からなる一つの個体は、複数の生命体の犠牲を必要としている。

 いかにアンドレアルフスが力を持っていようと、本来の能力は人間の変化。生き物の変化ではない。

 その理を歪めるだけでも簡単な事ではないというのに、それを一度に複数の命を変えるのだ。


 どれほどの負荷がかかるのかシェリルには分からなかった。


「……数が、合わねぇ」

 アンドレアルフスが声を絞り出した。シェリルは彼の声に眉をひそめた。

 数が合わない。それは両腕の生命と、生き残っている本体の生命が等価でないという事だ。


 まずい。

 シェリルは自分が何をすべきか、思考を巡らせた。


「くそっ」

 アンドレアルフスの悪態がシェリルを焦らせる。

 命の比率を変えるには何が一番賢いのか。命を増やす? いや、面積の広い部分を奪えば可能になるかもしれない。


 シェリルは迷わなかった。アンドレアルフスの剣を抜き、ピュレンシスの足の付け根を突いた。

 魔力が込められて切れ味の上がった切っ先は、ピュレンシスの片足をいとも簡単に奪ってみせる。


 バランスを崩してピュレンシスが倒れる。びちゃりと嫌な音を立てながら倒れた本体を気にする事なく、シェリルはアンドレアルフスの手元まで足を引き寄せた。

 抵抗の意志を見せていた足だったが、アンドレアルフスの手が触れた途端に土塊へ変わっていく。


「助かる」


 アンドレアルフスの力に巻き込まれぬよう、シェリルはその呟きに応える事なく離れた。倒れた本体は、変化の苦痛を味わっているのだろうか。大きな痙攣を繰り返していた。

 生き残っている個体がそれぞれ苦しんでいるかのように、バラバラな動きをしている。


 アンドレアルフスの方も苦痛に顔を歪ませていた。彼には珍しく、汗が頬を伝い、顎からぽたりと落ちていった。

 手伝いたい気持ちに駆られるが、シェリルが力を添えた所で意味はないだろう。むしろ、集中力を削ぐ事になって失敗してしまうかもしれない。

 そう思えば、シェリルには巻き込まれないよう離れている以外にできる事はなかった。


「……くぅっ」

 アンドレアルフスが喘ぐ。魔力のうねりが彼の髪を、ケルガを巻き上げる。クロマも大きくはためいている。

 土塊になったピュレンシスから、うっすらと湯気のようなものが伸びていた。犠牲となる生命を圧縮したものだろう。

 それらはアンドレアルフスの腕へと纏わりつき、くるくると回っている。


「逃げようたって無駄だぜぇ……っ!」

 彼は勢いよく両腕を突き出した。彼の両腕を伝ってが移動していく。その先にはピュレンシスの本体がある。

 シェリルは固唾を飲んで見守っていた。

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