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贖う者  作者: 魚野れん
第十六章 アルクの森
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アンドレアルフス最大の弱点

「アンドレ!

 絶対この戦い方は頭が悪いわ!!!」

「うっせぇ、俺はこいつと出来れば戦いたくないんだっ」

 シェリルの絶叫が木々に吸い取られていく。シェリルとアンドレアルフスはピュレンシスを中央にして喧嘩をしていた。




 ピュレンシスをおびき寄せ、間に挟み込んだシェリルは先手必勝とばかりに勢いよく力を奮った。ピュレンシスは間一髪で胴体を削られる事を阻止したが、腕が一本飛んでいった。

 回転して弧を描いたそれは、どしゃり大きな音を立ててとアンドレアルフスの足下へと落下する。

 ぴくぴくと死にきれずに蠢くその腕は、目の前で見て気分の良いものではない。


 断面は貝類の断面のような、トマトの断面のような、何とも言い難いものが見え、そこからは人間の血液のように赤い体液が流れている。


「うあ……っ」

 アンドレアルフスはそれを剣先で遠ざけると、その勢いのまま鎌鼬を起こす。無造作に作られた鎌鼬はピュレンシスの体のあちこちに小さな傷を与えた。

 すっぱりと切れたその切り口からは鮮やかな中身が見えている。


 アンドレアルフスの鎌鼬のせいで、よりいっそう気持ちの悪い生物になっていた。


「無理、俺、無理!

 美しくないの、本当に駄目なんだ……!」


 シェリルがアンドレアルフスの鎌鼬から身を守っている間、アンドレアルフスは胃の中にあったものを出していたらしい。

 口元を拭い、土気色になった彼の足下には吐瀉物が広がっていた。


「当たらない、ちっぽけな攻撃なんていらないのよ!?」

「うぷ、無理っ」


 弱々しい動きを見せるアンドレアルフスを狙う事にしたらしいピュレンシスが彼の方へ体を向ける。シェリルは慌ててピュレンシスの足下の岩を小さな泥の沼へと変えた。

 かなりの重量があるピュレンシスは片足を泥の中につっこみバランスを崩す。

 どうにか転倒を免れた大きな固まりは、そう仕向けたシェリルへと頭を動かす。


「アンドレ!

 絶対この戦い方は頭が悪いわ!!!」

「うっせぇ、俺はこいつと出来れば戦いたくないんだっ」


 ゆっくりと体重を移動させ、泥の中に埋もれた足を引き抜く。その間にシェリルはアンドレアルフスに任せた気で思考停止させていた頭脳を勢いよく回転させる。


 これ以上、ピュレンシスの形を損なえばアンドレアルフスが動けなくなるかもしれない。全く持って想定外の展開である。

 アンドレアルフスから汚いものが苦手だと聞かされた事はあったが、ここまで耐性がないとは知らなかった。


 舌打ちしたい気持ちすら湧き上がってくるが、アンドレアルフスの消耗を考えれば些細な苛つきだった。

 どちらにしろピュレンシスの動きを完全に止め、傷つける事なく殺さなくてはならない。


 一呼吸して冷静さを取り戻したシェリルは簡単な方法を思いついた。少しばかりアンドレアルフスが犠牲になるが、恐らく、これが一番、彼の為にもなるし、確実だ。


「アンドレ、私の言う事聞いてもらうわよ」

「はっ?」


 アンドレアルフスの返事を聞くまでもなく、シェリルは動き始めた。ピュレンシスも体制を立て直し、シェリルの方へと向かってきている。

 少しだけ距離があるとは言え、そんなに猶予もない。


「自ら不運を舞い込む運命を手繰り寄せしアラクネの糸よ!」


 シェリルは指先をナイフで切り虚空へ血の術式を描き始めた。描く、とは言ってもシェリルの指先は動いていない。流れる血液が勝手に伸びていくだけだ。


「己の身を知らず、無謀なる者を留め置き賜え!!」

 彼女の描く術式はすぐに姿を変え、ピュレンシスへと纏わりついた。

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