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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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優しい孔雀の報告

 用意するものがある、と言ったアンドレアルフスはシェリル達への報告を先に済ませる事にし、一旦ユリアに下がるよう告げた。

 ユリアは逆らう事なく、無言の礼をして部屋を出ていった。彼女の気配が遠のく頃、アンドレアルフスはようやくシェリルから離れ、その隣に座った。

 ゆっくりとした動作は、ユリアへの心残りを映しているかのようだ。


「わりぃな、話だけしたらユリアのお願いきいてやんなきゃなんなくなったわ」

「本当に良いのか」


 シェリルが口を開くよりも早く、アンドロマリウスか声を発した。同じ悪魔である彼にはアンドレアルフスが何をするのか分かっているのだろう。そしてそれがもたらす必要な犠牲が簡単なものではない事も。

 シェリルには何となく分かっていた。方法は分からないが、結果としてどうなるのかの予測はつく。


 アンドレアルフスは長く息を吐き、ゆっくりと首を横に振った。

「……あいつは本気なんだ。

 心からの願いは可能な限り叶えてやるのが、俺の責任のとり方だ」

 ユリアの意志に対して納得はいかないが、かといってただ否定して彼女の気持ちを押さえ込みたくはない。シェリルは、彼の中に自分と同じような中途半端な優しさがある事に気が付いた。


 そんな中途半端な優しさを支えるのは、自ら課した決まり事である。それを守ればみんなが幸せになる。そう信じて貫こうとする堅い覚悟である。

 恐らくシェリルの倍以上も生きている悪魔だ。これが自分を苦しめる行為そのものだと十分に理解しているだろう。


 彼の表情、言葉遣い、吐き出される息、全てが「苦しい」と叫んでいた。ユリアを見守る己にとっては辛い選択だが、本人は幸せになれるはずだ、と言い聞かせている声まで聞こえてくるようだった。


「気にすんな。これは俺と契約している一族の問題だ。

 あんたらは関係ない」

「だが、あの一族を作り上げたのはロネヴェの声掛けが発端だろう」

「……発端だって? 死んだ奴から引き継いだ事。

 俺とロネヴェの話であってあんたらじゃない」


 アンドレアルフスは珍しくアンドロマリウスへ噛み付くかのように視線をギラつかせていた。翡翠の瞳に黄金の影がざわついていた。


「それが例え今生きてるシェリルを守る為の契約だったとしても、だ。

 この話があったその場にいなかったあんたらは、一切関係ない」

「――それなら、良い。お前がそう言うならな」


 同じようなフレーズを何度も口にするアンドレアルフスに、アンドロマリウスは折れた。シェリルは頑ななアンドレアルフスに自分を重ねてしまい、何も口を挟めなかった。




「――で。

 こっちが本題だ」


 少しの沈黙の後、目を閉じてしまっていたアンドレアルフスがシェリルを見た。

「まず、いくつかの種族が強制的かどうかはともかく、今までの生息地から大きく離れた場所で発見され始めた。

 ディサレシアも移動しちまったしな」

 シェリルははっとしたように目を見開いた。心当たりがあるではないか。


「……何かあったのかもしれないわね。

 あなたが魔界にいる間、私達はユーメネの向こうにいるはずのアホロテがこの街で産卵していたの」

 アンドレアルフスはさして驚くでもなく、ただ頷いた。水鏡でアホロテの孵化を見ていたからだ。

「ああ、プロケルに水鏡借りて少しだけ見てたぜ。

 途中で気持ち悪くなって見んのやめたけどな」

「見てたの!?」


 驚くシェリルに、アンドレアルフスは笑う。


「いつもそういう訳じゃねーよ。

 その後どうなったかは知らねぇしな……

 あんたらがここに居るなら解決したんだろうし、その話はこれで終いだ。

 で、ディサレシアにこの事態について聞きに行こうかと思ったんだが、ちょっと厄介だったんだ。

 だから、一人で行かないでここへ戻ってきた訳」


 アンドレアルフスの言葉にシェリルとアンドロマリウスは顔を見合わせたのだった。

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