表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
252/347

アンドレアルフスの帰還

 シェリルに抱え込まれて、しばらくの間彼女に身を任せていたユリアはゆっくりと身を起こした。シェリルはその動きに合わせてそっと身を引いた。

 ユリアは少しだけ恥ずかしそうに、もぞもぞとシェリルから座る位置をずらしていく。拳二つほど離れた所で小さく息を吐いた。


「取り乱してごめん。自分が情けなくて、ちょっと許せなかった」


 ユリアは膝の上で手を堅く結んでいた。それは彼女の中で未だにくすぶっている気持ちを無理にでも抑えようとしているかのようだった。

 シェリルはあえて、その拳を包むように優しく両手で覆い、のぞき込むようにしてユリアと目を合わせる。


「似たような気持ちを味わった事があるから分かるわ。

 でもね、誰も気にしていない事をそうやって気にしすぎてしまうのは損なの。

 せっかくの人生だもの、有意義に過ごしましょ」


 言葉かけをしながら、ユリアによって堅く結ばれた手を解し、力を抜くように撫でてやる。

 ユリアは戸惑う様子を見せながらも、力を抜いていった。

 ユリアの事を心の底から安心させる事ができるのは、アンドレアルフスだけなのだろうか。何度も緊張と弛緩を繰り返す彼女を見ながらシェリルは考えに耽る。


 シェリルがよくよく見てみれば、ユリアは少し頬を赤らめ、やや瞳が潤っている。その瞳はすぐにでも、ぽろりと一滴落としてしまうのではないかとシェリルが不安に思った程だ。

 シェリルの不安は見事に外れる事となったが、シェリルは恐らくこのユリアが見せた表情を一生忘れる事は出来ないだろう。


 シェリルは、ユリアの見せる普段とは違った、戸惑いの心を強く感じていた。きっと、後でアンドロマリウスに問いかけても答えてはくれない。自分だけ理解できない事にすっきりしない気分のまま、カフごと気持ちを飲み込んだ。




「ゆっくり休めたか?」

「あっ!!」

 突然背後から優しく抱きしめられ、耳元に囁かれたシェリルは大きな声を出した。


 彼女の首もとに顔を埋めた男の金糸がシェリルの視界に入ってくる。

 この美しい巻き毛はアンドレアルフスだ。アンドロマリウスよりも少しだけ高めの体温に、彼独特の香り。

 今日はややサンダルウッドを強めに感じる。落ち着く香りと彼の存在にシェリルの口元は勝手に緩んでいった。


「お帰りなさい」

「ただいま、シェリル」


 アンドレアルフスは彼女の後頭部に口付け、耳たぶを触る。シェリルの耳にピアスの穴によるしこりがあるのを確認した。

 ユリアに成り代わってカリスへ行った時以来、シェリルが耳飾りをつけているのを見ていなかったアンドレアルフスは、まだ穴が健在である事を確かめたのである。

 もちろん耳飾りをつけていないという情報は、水鏡での覗き見で知った事である。


「お守り作ったんだけど、つけて良いか?」

 アンドロマリウスから、アンドレアルフスがシェリルの為に何かを作りに戻った事を効かされていたシェリルは、彼の想定内の言葉に頷いた。

 指輪だと考えていたシェリルは、耳たぶに触れる彼を不思議に思っていたが、すぐにその謎は解けた。


 彼が取り出したのは耳飾りだったのである。指輪の可能性の方が高いと睨んでいたが、耳飾りだったらしい。

 シェリルも昔、指輪やら首飾りやら耳飾りやら、と、じゃらじゃらと可能な限りの飾りを身につけた事がある。


 それはもちろん自分を飾り立てたかった訳ではなく、自分の力を最大限もしくはそれ以上に発揮する為。そして自分の身を守る為である。

 その時の経験上、やはり体から離れるようなものを多く身に付けると動きが制約されてしまう。


 そう鑑みて、肌に密着する指輪がすぐに使えて良いのではないかとシェリルは考えていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ