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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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足りない力と欲望 *

 シェリルは遠慮という言葉を失ったかのように、アンドロマリウスの力を貪り始めた。愛しい者への執着にも見える程に熱烈な口付けである。

 どれ程飢えていたのだろうか。そう問いたくなる程だ。


 アンドロマリウスは彼女が望むまま、好きなだけ奪わせる。完全に受け身になった悪魔は、召喚術士が力を求めて奥へと伸ばす舌を絡めとった。

 押し返すようにして、また彼女の舌を舐めあげるようにつたわせて宥めつつ、ゆっくりと力を譲っていく。


 シェリルが自分の体の中でアンドロマリウスの力を無の力へと変換し、自分の力として蓄える余裕を持たせる為である。

 急激な他者の魔力は体に負担がかかる。悪魔と契約しているシェリルからすれば、天使クスエルの力を奪った時よりはマシという程度であって、別に契約している悪魔から受け取る魔力が何の負担もないという訳ではない。


 いくら頑丈な召喚術士であっても、後で苦しむ事になるだろう。


 足りない魔力を補おうとする本能的な焦りを制御する事は難しい。だからこそ、与える側が気を付けてやらねばならないのだ。

 情欲を誘いそうな行為ではあるが、そちらに意識が動く程の余裕はアンドロマリウスにはなかった。


 うっすらとアンドロマリウスが目を開ければ、うっとりと頬を赤らめたシェリルの顔が飛び込んでくる。

 切なそうに眉を下げ、閉じられた瞳。離れては押し付けられる唇の紅。離れる際に舌を吸えば、ちらりとしまわれずに見える赤い舌。

 純粋に口付けを楽しんでいるのではないかと勘違いしてしまいそうになる。


 シェリルは興奮していた。力が欲しいのか、行為の続きを欲しているのか分からなくなりそうだった。

 力を受け取る行為は気持ちが良い。特にアンドロマリウスは甘やかしてくれるのが分かる。


 がむしゃらに追いかければ、そっと構ってくれる。いったん離れようとすれば、また戻ってきてもいいと撫でてくれる。

 心地が良かった。思わず彼の胸に自らの胸を押し付ける。アンドロマリウスが身に着けている濡れた布地が当たり、擦れる。燻っていた官能の火種が燃え上がった。


 切なそうなシェリルの吐息をアンドロマリウスが飲み込み、彼は眉を寄せた。アンドロマリウスは判断に苦しむ。これは明らかなシェリルからの誘いだった。

 だが、本当にそれに乗っていいのだろうか。主がその気であれば、契約している悪魔に拒否する権利はない。


 本当に彼女が欲しているのはアンドロマリウスではなくロネヴェであろう。そう考えるとどうしても踏み込みにくい。

 仕方なく宥めるようにシェリルの背を撫でてみる。彼の手が彼女の背を移動すれば、波打つように筋肉が動き、腰が揺れる。


 シェリルは与えられる刺激をそのまま素直に感じている。それは十分にアンドロマリウスを驚かせ、そして興奮させた。

 脇腹をそっと撫でれば甘ったるい吐息を吐き、胸元を擦り付けてくる。


「んん……」


 アンドロマリウスは残念に思った。このまま彼女の欲望を満たしてやるのは容易い。だが、シェリルの真意を知らずに動くのはやはり気か向かない。

 これはただ、シェリルの面倒を見ているだけだ。そうアンドロマリウスは判断した。

 彼女を宥めるように、ずっと背中をさすり続けた。

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