表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
246/347

元気の出る湯

 抱き留めるようにしてシェリルが倒れ込むのを防いだアンドロマリウスは、雨に濡れて冷たくなったその体温を感じた。

 眉をひそめたものの、これは彼女がこの街の為に進んでやった事だ。誰を責める話ではない。アンドロマリウスは苛立ちそうになる自分に言い聞かせる。


 悪魔でなければ、妖精召還の手伝いをしてやれた。自分が堕天する前ならば、という思いが一瞬頭の片隅に浮かぶ。今更無意味な事だ。

 彼はシェリルを抱き上げて塔へと戻る。すぐに彼女の濡れたケルガを取り去り体を拭いてやる。


 本当ならば暖かな湯船に入れて、体を温めてやりたい。だが、いつまでも街の人々を室内に押し込めていくわけにもいかない。

 気を失って血色が悪いままのシェリルを布団の中に押し込める。アンドロマリウスはこのままシェリルの面倒をみたい気持ちを抑えて外出許可の言葉を伝えていった。


 駆け抜ける風のように素早く伝令を終えた悪魔は、横になっているシェリルのそばに膝をつく。彼女は血の気を失ったまま青白い肌をしていた。決して気温が低いわけではない。

 彼女は雨に濡れ続けて体温を奪われ、魔力の枯渇によって血の気が引いてしまったのだ。


 アンドロマリウスはシェリルを布地にくるんだまま浴場へと運ぶ。血行を促進させる効能をもち、疲れにも効く薬草を組み合わせた袋を選んで湯船を作る。

 浴槽に張られた湯は淡い黄色をしていた。湯をシェリルの体へかけて温かさに慣れさせてから、その中に彼女と一緒につかる。


 己の体を下敷きにし、シェリルを仰向けにした。ややぴりっとした刺激と共にじんわりとした温かさがやってくる。

 少しでも早く体温が戻るように腕や足をさする。やはり魔力が足りないせいか、シェリルの体はなかなか温まらなかった。

 アンドロマリウスは小さな溜息を吐き、シェリルの腹部を撫でた。いつも行っている応急対処と同じように力を注いでいく。今回は気が進まなかったが仕方がない。


「緊急だからな……

 頻度を上げれば精神も近づくから、頻繁にやるものではないというのに」

「ん……」


 彼の独り言に小さく反応するシェリルだったが、目覚めはしなかった。その代わり、彼女の毛髪が少しずつ黒く染まっていく。

 シェリルの髪が中ほどまで黒く染まる。艶やかな黒髪は、アンドロマリウスの全てを吸い込みそうな黒とはまた異なる色を見せていた。


 アンドロマリウスの印が淡い光を放ち、それに呼応するようにしてロネヴェの印がささやかに光っている。シェリルの髪色がこれ以上変わらぬようにアンドロマリウスは力を加減し始めた。

 緊急時だとはいえ、シェリルの意志に関係なく全てを染め上げる事ははばかられる。ロネヴェを愛するシェリルを勝手に侵食するのは気が引けるのだ。


「あ……」

「目覚めたか」


 シェリルは緩慢な動きで頭を横に振った。そして周囲の状況を確認し、自分の状態を理解する。

 シェリルは半身を捻り、アンドロマリウスの方へと体を向けた。


「……消耗が激しかったから……できる事ならやりたく、なかったんだけど……」

「仕方あるまい」

「うん……

 マリウス」

「何だ」


 シェリルの顔色は少しだけ良くなっていたが、生気がなく、アンドロマリウスが魔力の供給をやめたらすぐにでも気を失いそうだ。

 あまり力のない瞳を向け、シェリルは淡々と言った。


「もっとちょうだい」

「……気が済むまで好きにすれば良い」


 アンドロマリウスはシェリルが口付けしやすいように彼女の体制を変えてやる。力なく上半身を密着させたシェリルはなけなしの力を使ってアンドロマリウスへと口付けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ