表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
243/347

雨乞いの歌

 シェリルはアンドロマリウスの作った球を符の上に置き、手のひらで押し潰した。簡単に球は壊れて砂のような細かな粒の粉末になってしまう。

 ふわりと爽やかな香りが舞った。シェリルはその中にラベンダーの香りを感じると目元を緩ませる。


 指の平で符に書いてある術式をなぞりながら力を注ぐ。なぞられた術式は、ほんのりと色付いて光り始めていた。

 シェリルが術式の様子を軽く確認して頷くと、アンドロマリウスは彼女を抱き上げ次の術式の方へ飛び立った。


 次の場所へ行く間に袋の中の球の数を数える。アンドロマリウスが用意した球は、シェリルがエブロージャを囲って作った術式の中、符の数と同じだった。

 以心伝心と言っても良いほどの連携に、シェリルは複雑な思いを抱くのだった。




 全ての符にある術式を用意し終えた二人は街の中心に移動した。アンドロマリウスが白蓮を置くと、シェリルは持参していた赤い粉末を口に入れた。

 彼女が眉をしかめながら口にしたのはアイティの粉末である。口に含む事で、簡易的に浄化をもたらすのだ。


 舌を動かして口内に広げ、唇を湿らせた。唾液に溶けたアイティが口を真っ赤に染め上げる。

 シェリルが上空を見上げ始めると、アンドロマリウスは一歩ずつ下がっていった。彼女は天を見上げたまま目を閉じ、歌い始める。


 シェリルが大きく口を開けば、真っ赤な口内が異様なほど鮮明に見える。高音域で歌う彼女の口から出てきている言葉は、人間の言葉ではなかった。


Mae(マエ) govannen(ゴヴァンネン) mellon(メルロン)

 Im(イム) linnar(リンナール)


 シェリルが歌っているのはエルフ語である。


Min(ミン) fastanneth(ファスタンネス) togmerood(トグメロード)……」


 妖精に呼びかけ、降雨を待ち望むといった内容のものだ。両手で白蓮を天に掲げ、白蓮に描かれた術式に力を注ぐ。

 白蓮は術式の輝きを纏って青白く輝いている。


Min(ミン) fastanneth(ファスタンネス) lorn(ロルン)

 A() gorndil(ゴルンディル)!!

 Im(イム) garnneth(ガルンネス) alfirin(アルフィリン)


 白い花を用意したとシェリルが口にした途端、彼女の周囲をうっすらと光が飛び始めた。妖精が様子を見ているのだ。

 シェリルは変調し、さらに高い声色で歌う。アンドロマリウスは街の外へ急いで出ていった。シェリルの力に妖精が反応を示したのである。


 これ以上あの場にいれば、召喚術の邪魔になってしまう。彼にできる事は、街の外へ出て召喚術の成功確率を上げ、同時にシェリルの力を受けて発動を待っている大規模な術式を展開させる事だ。

 アンドロマリウスは早速術式の外側から展開させるべく、仕上げのひと仕事を始めた。火を起こしたのである。


 特殊な葉を火種として使ったその炎は、もくもくと黒い煙を吐き出している。同じ事を他の符の外側で行えば、その煙に反応するように符に描かれた術式が輝きを強めた。

 煙から街を守るかのように展開された術式と術式が繋がっていく。


 その様子を見守りながら、アンドロマリウスはシェリルの召喚成功を祈るのだった。

2020.5.15  本文差し替え

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ