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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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雨乞いの準備

 アンドロマリウスが向かったのは、シェリルが作った薬草庫である。余っている部屋のいくつかを改装して薬草を保管しているのだ。

 彼はその内の、ほとんど使わない薬草を集めた薬草庫に入っていった。


 白蓮の粉末を探し出し、今回の術式に必要な分を小分けにして用意する。白蓮の粉末は、水気を司る精霊をおびき寄せる為の餌である。

 他にも竜骨やイランイランの粉末などを用意していく。同じくそれぞれ小分けにして準備を行った。


 一方、シェリルはエブロージャの外側で作業をしていた。彼女の手には細い紐が握られている。その紐はエブロージャの外周を囲むようにして伸ばされ、一定の間隔で印が付けられていた。

 人間が行う、一番安全で原始的な方法をシェリルは考えている。


 それを召喚術と組み合わせようとしているのだが、果たしてアンドロマリウスはそれを理解して準備を進めているだろうか。シェリルは作業を続けながら漆黒の悪魔が戻ってくるのを待っていた。

 印を付けている場所に予め書き込んでおいた符を置き、家から持ってきていた塩を添えて固定する。

 地道な作業をこなしていると、アンドロマリウスが現れた。


「お前の望むものはこれか。

 足りないようならば、また持ってくるが」


 シェリルが手を伸ばすと、その腕に二つの袋を引っ掛けた。片方は大きく、もう片方は小さい。大きい方をシェリルが開けば、そこには白蓮を模した美しい造花が入っていた。


「すごいわ」

「白蓮に竜骨の粉末を加え、竜舌草のエキスと竜舌花の製油で練り上げたものだ。

 俺が作ったのだから確実におびき寄せられるだろう」


 アンドロマリウスが誇らしげに説明する。核の持つ力ではなく、彼自身が持つ元々の能力だからだろうか。シェリルが袋から取り出して、しげしげと眺めれば眺めるほど、造形の美しさが際立って見える。

 白蓮の台座部分には細やかな模様が描かれている。模様を細部まで観察すれば、それがシェリルがこれから展開させるであろう術式を想定して描かれた補助の術式が混じっているのが分かる。


 この造花はもちろん使い捨てである。シェリルが一瞬、使ってしまうのは勿体ないと思ってしまうほどに美しい品であった。

 シェリルは見納めだと言わんばかりにしっかりと白蓮を眺めてから丁寧にしまう。


 そして今度は小さな袋の方を開いた。こちらには親指大の、ほとんど同じ大きさの球がいくつも入っている。

 一つだけ取り出そうと触れれば、しっとりとした感触が伝わってくる。力を加えて崩してしまわないように気をつけながら取り出した。

 表面はさらさらとしている。泥団子に砂をまぶしたかのようだ。


 シェリルは匂いを嗅いだ。鼻をひくつかせればほんのりと鉄臭さを感じる。アイティの粉末を加えたのだろう。

 もう一度嗅ぐと、他にも様々な香りが感じられた。ジュニパーにセージ、ヤーバサの香りまでする。少し甘いのは、イランイランだろう。

 特にヤーバサはここ最近使っていない。シェリル自身もどこにしまったか曖昧な程である。


 この悪魔は薬草庫の奥深くまで探したようだとシェリルは頬を緩ませた。

「どうだ」

「私が何しようとしてたのか、本当に理解してるのね」

 シェリルが答えをはぐらかすとアンドロマリウスは鼻で笑った。


「水気を操る悪魔や天使を呼べば、いざこざが起きる可能性が高い。幻獣なども同様だ。

 残るは精霊頼みだが、彼らだけでは心許ない」

「……」

「彼らの動きを最大限利用した化学的方法を取る。

 化学的方法は精霊召喚にとって忌避すべき事だ。

 だから、召喚術の中心となる白蓮には精霊を守る為の術式を描いた。」


 シェリルは大きく頷いた。

「精霊召喚の為にエブロージャ全体を浄化して、その浄化の結界の上に降雨を促すように加工した塩を撒くの」

「巨大な術式になるが、二つの術式で済むようになる」

 その通りだった。白蓮を中心とした召喚の術式に街を覆う術式、塩を空へと舞わせるものに分けると大掛かりになりすぎる。

 少しでも簡素になるよう考えたのが、広範囲に渡る術式を組み合わせてしまう事だった。

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