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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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アンドレアルフスの複雑な親心

 アンドロマリウスがシェリルの頬を撫で、己の額を彼女のそれに重ねる。ミャクスもシェリルも寝台が揺れても身動きしない。共に深い眠りにあるようだ。

 しばらく額を合わせていたアンドロマリウスだが、おもむろに彼女の腹部をさらした。

 腹部にはアンドロマリウスの契約印が見えている。彼はそこに手を当てて、慈しむように撫でさする。


 アンドレアルフスはそれを羨望の眼差しで見つめていた。口元はゆるく弧を描いている。

 自分には決して行う事のできない行為を見せつけられた彼の、諦めの笑みだった。


 召還印はアンドロマリウスに反応して淡い光を放っている。

 どんなにシェリルを愛しく思っていても、二人の悪魔とは違い、アンドレアルフスは彼女に印を刻みつける事はできない。

 ロネヴェの印に重ねて契約する事が許されるのは、彼の意志を継ぐアンドロマリウスだけだ。


 力が強いだけの、ただ星読みと美貌だけが取り柄であるアンドレアルフスは求められる機会が少ない。更には求められたとしても器として十分な人間は少なすぎる。

 人間が好きなアンドレアルフスは、ひっそりと人間たちの中に潜んで生活するしかないのだ。そんな中現れた、一人の人間がシェリルである。


 ただ条件が合うだけではない。アンドレアルフスの心をも潤す貴重な存在である彼女を手に入れたいと思っても仕方のない事だろう。


 だが、ロネヴェに選ばれたのはアンドロマリウスである。


 彼女の体には二つの印がある。アンドロマリウスのものの他に、ロネヴェのものが残っているからだ。そのロネヴェの契約印もアンドロマリウスの力に反応している。

 アンドロマリウスがロネヴェの核を保管している事によって起きている現象である。

 だが、アンドレアルフスにはロネヴェがアンドロマリウスの行動を承認し、呼応しているかのように感じられ、より一層、アンドレアルフスだけが繋がりのない存在であるように思えるのだった。


 アンドロマリウスが契約印に力を注いてすぐ、シェリルに変化が現れた。彼女の髪の毛先が全て濡れ羽色に染まり始めたのだ。アンドロマリウスはその髪の毛を見つめている。

 シェリルに流し込む力の加減をしているのだろう。


 アホロテの追い出し作業で力を使い込んだと思われるシェリルに、彼女が気がつかない程度の補填をしているのだとアンドレアルフスは見当をつける。

 アンドレアルフスの読み通り、シェリルの毛先が全て染まるのを確認してアンドロマリウスは手を放した。

 アンドロマリウスの細やかな気遣いにアンドレアルフスは笑みをこぼす。今度現れた彼の笑みは、慈愛に満ちていた。




「突然すまない」

「いや、構わないが。しかし珍しい事もあるものだ」

 アンドレアルフスはしばらくシェリルとアンドロマリウスの穏やかな夜を見守ってから、ディサレシアの行方を突き止めるべくよく旅に出ている悪魔に話を聞く事にした。


 目の前にいるのがその一人である。彼は人探しをしていて魔界にいる時間の方が短いような元人間だ。彼を掴まえる事ができて幸運だった。アンドレアルフスはそう思っていた。

 ブルネットの短髪にきりっとした太めの眉。奥二重ぎみの瞳にはいつも喪失感が漂っている。


「とある絶滅危惧種を探している」

「ほう。

 協力してやろう。ところでお前が守らんとしているあの召還術士、一度このリンゴを試させてはくれないか?」


 男は手のひらに小さなリンゴを乗せている。彼はこのリンゴが反応する存在を探しているのだ。長年の感覚からシェリルがその存在ではないという自信があったアンドレアルフスは素直に頷いた。

「分かったよ、ソロモン。

 だからディサレシアを見かけた事があるか教えてくれ」

 ソロモンと呼ばれた男は、うっすらと笑みを浮かべたのだった。

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