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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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ドワーフとアンドレアルフス

 応接室の一つで太陽のような男がマントを被ったドワーフと話し合っていた。ドワーフはどこにでもいる普通のドワーフであったが、自慢のあごひげは複雑に編み込まれており、美しい織物で作られたカーテンのようであった。

 彼に応対するこの館の主、アンドレアルフスの手には小さな輝きがあった。シェリルの魔力から作り上げた結晶である。


「どうだ、ノーグリン。加工できるか」

「問題ありませんな。

 しかし、こんな純粋な力の結晶なんてどうやって……」


 ノーグリンはアンドレアルフスの掌から一粒だけつまみ取り、照明にかざした。彼の指先で、彼女の結晶はきらりと強い輝きを生み出している。

「ちょっとしたツテでね」


アンドレアルフスが流し目を使いながら浅い笑みを作れば、ドワーフは黙り込んだ。アンドレアルフスとの交流が長い彼は知っている。こういう時は絶対に入手した経路を話す事がないという事を。

 そして、万が一聞き出せたところで彼にはそのチャンスが現れないという事を。


「所で。私は急いでいるんだが、どれくらいで完成できる?」

「そうですな……大体五日ほどいただきたい所です」


 アンドレアルフスは笑った。ノーグリンは、剛毛で豊かな眉を寄せて口をへの字にする。

「まあ、そのぐらいはかかるか。

 そうだ。耳飾りは美しく、だが目立たないデザインが良い」

「この素材を生かすので?」

「いや、違う」


 美しい悪魔は頬杖をついて、にやりと笑った。ノーグリンの背筋に冷たいものが走った。アンドレアルフス特有の、上位者としての恐怖感である。

 ノーグリンの表情の変化に気がついたアンドレアルフスは眉を下げて苦笑する。そして、挑むかのように彼を見つめた。その口角は上がっていた。


「彼女が非常時に使いやすいようにしておきたい」

「!」

「これは、ただの飾りではない。実用品なのだ」


 ノーグリンはこれから作る耳飾りがある種の失われる芸術品の一つとなる事を理解した。

 この耳飾りが贈られる相手には危険が迫っており、これが命綱となるであろうという事も。


「彼女、というのは風変わりな召喚術士でね。

 ロネヴェを魅了し、アンドロマリウスを捉えた女だ」

「なっ」


 重大な秘密を握らされてしまったという思いがノーグリンの頭を駆けめぐる。頭の中では警笛のように、金属を金槌で叩きつける音が響いていた。


「彼女は今、狙われている。

 死ねば、彼女が捉えているアンドロマリウスも死ぬ」

「……」


 情報を受け取ったドワーフの頭の中には加工が難しい、ミスリルを平らに延ばして細長くて平べったい棒が頭に浮かんだ。それが緩くねじられ、組み合わされる。絶妙な具合に組み合わせられた中心に結晶がはめ込まれた。

 ノーグリンはそこまで空想すると、はっとした様子でアンドレアルフスに羊皮紙を要求した。羊皮紙を受け取ったドワーフはすらすらと自前のペンで先ほど空想していた耳飾りを描いていく。


「これは――」

 目の前に差し出された完成図を見たアンドレアルフスは、満足そうに頷いたのだった。アンドレアルフスから結晶を預かったノーグリンは足早に屋敷を立ち去った。


 与えられた期間が短いからであろう。アンドレアルフスはそれを見送ってから水鏡を覗いた。シェリルは眠っていた。

 何とかアホロテの件は解決させたのだろう。

 彼女の足下には小さな生き物が大勢眠っている。ミャクスだ。小動物に囲まれて眠っている彼女の顔色は少し悪いようだが、その顔色の悪さが彼女の奮闘ぶりを示しているようだ。


 その近くにはアンドロマリウスが座り込んでいた。寝台のすぐ側に座っているアンドロマリウスはシェリルの毛先を弄んでいる。

 彼の表情は穏やかそのもので、それがアンドレアルフスには不思議だった。

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