アンドレアルフスとプロケルの癒し
寝台に横たわったアンドレアルフスは天井を見つめていた。水鏡はシェリルを抱き上げたままアホロテの様子を見つめるアンドロマリウスが映っている。
アンドレアルフスはシェリル達の様子を見ていた為、見逃していた事だが、実際はプロケルと会話している時点でアホロテの孵化はほとんど終わっていた。
それに気が付いたのはプロケルの話を全て聞き終えてからだった。今は共食いをしている所である。
音が聞こえてこないだけましだと思いたくても、アンドレアルフスの脳内ではそれに準ずる音が当てはめられ、再生されてしまっていた。
己の想像力が恨めしい。
「エブロージャに現れたって事は、よほど水が足りなかったか個体数が減っているかのどちらかだろうね。
全部仕留めてしまえば簡単だけど、個体数が激減してしまったせいならば絶滅の危険もあるし……おや?」
水鏡の内容を見ていないプロケルは実に詳しくアホロテの行動を説明してくれた。実際、その説明は正しく、アンドレアルフスの気分を悪くさせるには十分すぎた。
そんな状態で水鏡を覗き込んでしまった彼は、寝台に伏したのである。
読み聞かせるように、そして流れるように説明し続けていたプロケルの口が止まる。
「アンドレ大丈夫かい?
そんなに私の話が気持ち悪かったかい?
それとも……まさか、もう孵化していたりする?」
プロケルののんきそうな声がアンドレアルフスを起こす。半身を起こして肘をついた彼は地を這うような低くてかすれた声を上げた。
「大丈夫じゃない!
あと、両方だ。君の話も十分気持ち悪い上に、水鏡の映像も君の話通りで美しくない」
「私は正しい情報を正確に伝えただけだよ」
プロケルとの会話用の鏡はアンドレアルフスの姿を映してはいなかったが、彼の声色からプロケルはよほどの光景が水鏡に広がっていたのだという考えに至ったのだろう。
アンドレアルフスの方は、鏡を見ていなくとも、親友が自分の状態を愉快に思っているに違いないと考えていた。
もしかしたら全てを知っていて、あえてアホロテの説明をしたのではないか。と勘ぐってしまうくらいにプロケルは優しく、意外と意地の悪い悪魔だ。
彼の持つ天使と悪魔の核、両方の性質を維持させる為の二面性なのかもしれないが。アンドレアルフスの試したがり屋な性質とはまた違う、彼の特長だった。
「まあ、君がこれ以上その水鏡を覗く意味はないと思うよ。
賢い君の息子の事だ。すぐにアホロテをどうした方が良いかなんて見当が付く」
「うぅ……」
プロケルがぱしゃぱしゃと水音を立てる。鉱泉で遊んでいるのだろうか。
「君の気に入っている、あの召喚術士だって頭は悪くないのだろう?
それに、アホロテ程度で苦戦するほど弱い二人ではない。
今日の所は休んで、気分を切り替えて君にしかできない、やるべき事をすると良い」
水の跳ねる音に、プロケルの涼やかで柔らかい声が重なる。
「君が頑張り屋さんで、面倒見が良くて、心配性なのは分かっているよ。
向こうの世界ではあまり力も解放できず、歯がゆい気持ちで色々持て余しているのも分かっている」
ぱしゃん。アンドレアルフスは水面に波紋ができていく様子を脳内に描いた。その中心には美しい白銀の猫を思わせるプロケルがいる。
「マリウスの代わりに情報収集や他にもやろうと考えている事があるのでしょう?
溜めていた仕事は終わった。
後は向こうの事を気にせず、迅速に動くだけだ。
君にしかできない事。それをする為にはまず、その疲れ切った精神と身体を休ませないとね」
アンドレアルフスは彼の声を聞きながら意識を手放していったのだった。