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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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地底湖に関する悪魔の考察

「……」

「……」

 二人は、孵化の時を待ち続けている。そう長い時間ではないが、短い時間でもなかった。シェリルはアンドロマリウスの「孵化したら教える」という言葉に甘えてまどろんでいる所だ。


 己の肩に頭を預け、力を抜いて目を閉じているシェリルを包み込むように、アンドロマリウスは漆黒の翼で彼女を覆っていた。壁に背を預ける事ができないから、というのが二人の主張である。

 壁は全てアホロテが植え付けた卵とそれを守る為の粘液で埋め尽くされている。


 寄りかかっている壁からアホロテの幼体が出てくるなど、シェリルは想像するだけで気が塞ぐ。アホロテの成体を刺激しない程度に、かつできるだけ卵から離れたかったのだ。

 幸い地面は粘液で覆われてはおらず、卵がないであろう事は予想できた。這いずり回って移動する種だからこそ、潰してしまいそうな地面を避けてうまく産卵したのだろう。


 アンドロマリウスはアホロテが連携して天井にまで卵を植え付ける姿を想像し――ばかばかしくなってその先を考える事をやめた。


 そして違う可能性に目を向ける。シェリルがアホロテがこの地底湖を作ったのではないか、という推測である。

 それが正しいのならば、天井を這いずり回ったというよりも違う動きが考えられる。


 まず、一体あるいは複数のアホロテが自分その上部に卵を産みつけ、粘液で覆う。その粘液は外殻を作り、その中で卵と硬化していない粘液が存在するようになる。

 その、作られた小さな天井を中心にアホロテが円を描くようにして卵を産みつけていく。ある程度の大きさになると、アホロテの作っていた天井が繋がり、この場所の天井となった。


 段々とその下を浸食するようにアホロテが掘り下げていけば、小さな洞窟ができる。そうしている内に水が溜まり始め、それを避けるために中心を深くし、水位が下がったところに卵を産みつけるために、壁が卵で埋め尽くされる。


 そのような風に、アホロテの動きと共に湖も成長していったのだ……。


 もしこの場所が、エブロージャの地下水を貯水している場所よりも低い位置だったら。徐々にこの場所へと水は集まってくる事になる。

 アホロテに水が必要だったのではなく、卵を産みつけている課程による副作用だったのかもしれない。


 エブロージャの地下水がどの低さに存在しているのか、アンドロマリウスは知らない。

 プロケルであれば、簡単に見つけ出してしまうかもしれないが、意志のない物や、何の意志にも影響されていない天然物を見つけ出す事はアンドロマリウスにとって難しい事であったからだ。


 もしかしたら孵化後に水が必要だからこのような巣の作り方をしたのかもしれないし、地底湖の周囲を成体が囲っている事から、地底湖は先ほどの想像通りの副産物であって、水自体は幼体にとって危険なのかもしれない。

 こればかりは、卵が孵化しないと分からない事だった。




 ぱき……アンドロマリウスの耳に、乾燥した何かが割れるような小さな音が飛び込んできた。

 その音の方へと視線だけを動かせば、微かに景色が違っていた。あちこちに硬化した粘液の壁に亀裂が入っている。ぱら、と小さな欠片が落ち始めた。


「起きろ。始まった」

 アンドロマリウスが語りかければ、シェリルの瞼が震えた。少しの間瞼の下で目が動き、ぱちりと目を開ける。


「この音が、あれ?」

「そうだ」


 シェリルはゆっくりと周りを見る。鍾乳石のように見えていた壁や天井はあちこちがひび割れ、崩れてきていた。

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