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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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アホロテの繁殖期

 目の前に広がる地底湖に、シェリルは言葉を失った。確かに地底湖なのだが、様子がおかしかったのである。

 ちょうど空間の空いた場所の端に辿り着いた為、壁もが近い。アンドロマリウスがよく観察した所、鍾乳石ではない事が分かった。


 つまり、鍾乳洞のようにも見えるこの場所は恐らくアホロテが吐き出した特殊な粘液で固められているようだ。

 そしてそんな壁で囲まれた空間の中心にある地底湖を囲むように、大小様々な大きさのアホロテが横たわっていた。


 これは、天然の地底湖なのではなく、アホロテが作り出したものなのではないだろうか。そんな疑念がシェリルの頭をよぎる。

 アンドロマリウスは足下の砂漠の砂を握り、質感を確かめながらさらさらと指先からこぼしていく。そして次に壁に触れた。その壁は見た目に反して乾燥しているらしい。


 彼が少し力を入れると、普通の土壁のようにぱらぱらと崩れた。崩れた欠片を握ったアンドロマリウスが、シェリルの脳に話しかけてきた。


「ーーシェリル、非常に言いにくい事だが、原因が分かった」

「え?」


 その表情は暗く、良くない話である事が読みとれる。シェリルは唾を飲み込んだ。

「繁殖期だ」

「うそ」

「この壁は、アホロテの卵だ」

「……やだ」


 シェリルは無意識の内にアンドロマリウスにすり寄った。彼女の頭をあやすようにぽんと撫で、空いている方の手で崩れている壁を掘る。

 すぐに乾燥した部分を抜け、しっとりとぬるついた感触がアンドロマリウスを伝ってくる。


 その手を引き出せば、粘液のようなものがアンドロマリウスの手を汚していた。シェリルは淡く緑がかった乳白色に汚れた掌の中に、小さな円形のものがある事に気が付いた。


「これを見れば納得いくか?」

「うわ」


 シェリルは鼻をひくつかせながら身を引いた。小さな円形のものは卵である。卵自体は白く、中が少し透けて見えている。そこまで見たシェリルは観察するのをやめた。

 アンドロマリウスはシェリルの視線が離れた途端、卵を元の場所に戻した。


「シェリル、これからどうなるか見当つかないが、刺激して良い事はなさそうだ」

「……どうするのよ」


 彼は汚れた手に息を吹きかけていた。卵を守る為に使われていただろうその粘液は瞬時に固まり、壁と同じような鍾乳石のような見た目に変わる。


「どうするかは今後のアホロテの動き次第だな。

 アホロテの行動の原因は分かったが、水の件は解決していないし、湖があるからといってアホロテが原因だとも限らない」

「でも、この湖はアホロテが作ったんじゃないの?」


 手についたまま固まった粘液を崩しながら、面白くなさそうに呟いた。

「そう決めつけるな。地底湖ができたのが先かもしれん」

 シェリルは少しだけムッとしたが、自分の今いる場所を思えば、そんな感情はすぐに消え失せる。


 アンドロマリウスが刺激しない方が良いと言うのなら、その通りなのだ。

 それに、子を守る野生動物は例外なく獰猛だ。アホロテが団結して子を産み育てるのであれば、産卵が終わって孵化を待っていると思われる現在、刺激したら何が起きるか想像したくもない。


 シェリルが大人しくなったのを見計らい、アンドロマリウスは彼女を片腕で抱き上げた。その腕を椅子代わりにして落ち着いたシェリルは、彼の首へ腕をまわす。

「……孵化の時は近いだろう。先程の卵は孵りそうだった」

「……そう」

 アンドロマリウスは待機するのに相応しい場所を探し始めた。


「孵化してからの親の行動を見て、それから決めるとしよう」

「分かったわ」


 アンドロマリウスはゆっくりと静かに歩き出す。

 アホロテやこの場所の様子を観察しながら一周した二人だったが、結局元の場所で孵化の時を待つ事になったのだった。

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