心優しきミャクスとの接触
二人は擬態を解いていくミャクスの様子を見ていた。どうやら枝の真似をしているミャクス達の足下に穴が掘られており、そこに隠れ潜んで日中をやり過ごしていたようだ。
そうでなければ砂の中から何匹もの仲間が飛び出してくる訳がない。
プロケラの根は深く、太くてしっかりとしている。恐らくこの小さいミャクスならば、砂に埋もれず根の間に快適な巣を広げる事ができるだろう。
もしかしたら、シェリルが思っている以上に多くのミャクスがこの地下に潜んでいるのかもしれない。
アンドロマリウスがシェリルにその場で待つよう合図し、一人立ち上がった。何をするのかとシェリルが彼を見上げれば、アンドロマリウスは小さく微笑んだ。
そのまま颯爽と砂漠を進み、ミャクスのいるプロケラへと辿り着く。
不思議な事に、ミャクスはアンドロマリウスをただ見上げているだけで、突然の来訪者に対して逃げようと行動を移すものはいなかった。
ゆっくりと木の根本に座り込んだアンドロマリウスの膝の上にミャクスが乗っていく。彼はまんざらでもない様子でミャクスを撫で始めた。
思わずシェリルが立ち上がれば、アンドロマリウスはシェリルの方を見て手招きした。
何とも言えない光景だったが、今すぐ駆け寄りたい気持ちを抑えながらシェリルは歩いていった。
シェリルが近づいてきても、ミャクスが警戒の色を出す事はなかった。それどころか彼女の臭いを嗅ぐような動作をし、すり寄ってくる。
砂漠で生き残る為に特化したのか、硬めの毛がちくちくと刺さってむず痒い。
ミャクス達の様子を見ていると、アンドロマリウスの膝の上にいる個体は彼に撫でられて力を抜いている。よほど気を許しているのだろう。
「……どういう事?」
「単純な話だ。
話を聞き、手助けしてやると伝えた」
「このミャクス達、信じたの?」
「エブロージャの召喚術士は有名らしい」
アンドロマリウスの言葉に驚き、シェリルが信じられないと言えば、アンドロマリウスは得意そうに答えた。
あたかも自分の成果であるかのように言っているが、その実シェリルが今まで築いてきた実績が功を奏しただけである。
シェリルは一体どうしてミャクスにまで噂が拡がっているのだろうかと訝しむ。
だが、尻尾を左右に揺らしながらすり寄ってくる小動物に、頬が自然と緩んでいくのを止められない。
自分の知名度など、どうでも良くなっていく。
ミャクスの歓迎ぶりにぼうっとしていたシェリルは、アンドロマリウスのぽんぽんと砂を叩く合図によくやく気付き、彼の隣に座りこんだ。
「ここしばらく、砂漠ではアホロテが異常に活発化していて、脅威になっているそうだ」
アンドロマリウスの言葉にシェリルは頷いた。ミャクスは小さく甘えるような鳴き声を出す。
黄みがかった薄茶色の体毛に、淡い碧の瞳を持つ彼らがこちらを見つめていた。
「人里付近であれば、と思って逃げていた先がたまたま俺達の住むエブロージャだったという訳だ。
彼らのような小型な種はどんどん巨大化していくアホロテに対して不利だからな……
ミャクスは、自分達だけとは考えずに種を越えた群れを作って逃げていたが、結局残ったのはミャクスだけだったようだ」
よほど過酷な逃亡生活だったのだろう。ミャクスだけでも生き残りがいるだけ幸運なのかもしれない。
ミャクスは生き残る為に知能を駆使すると言うが、自らの種だけではなく周りをも助けようとするのか。
シェリルはエブロージャの水に関わっているかどうかはともかく、ただただそんな彼らの力になりたいと、強く思ったのだった。