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贖う者  作者: 魚野れん
第三章 悪魔とお茶会
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嘘つきな悪魔の愛

 ロネヴェが召還されたのは、偶然ではなかった。シェリルはロネヴェを召還しようとしていた訳ではない。それにも関わらず、召還陣から現れたのは彼だった。

 その時に違和感を覚えれば良かったのだ。仕組まれた召喚だという事に気が付けば良かったのだ。今更分かっても、遅いのだが。


 とにかく、ロネヴェはシェリルの事を知っていたらしい。そしてシェリルの召還に応えた。出会った時のやり取りは、本物ではなかった。


「ロネヴェは嘘つきだよ」

「――続きを」


 その言葉には答えず、シェリルは先を促した。肩をすくめる動作をして呆れる態度を示すと、アンドレアルフスは口を開いた。


 ロネヴェはこの街に居着いた時、この商館を支配するアンドレアルフスへと挨拶に訪れていた。この街に自らが気に入った女がいる事、その女がロネヴェの知らぬ間に大事に巻き込まれていたら助けて欲しいという事。

 それらを請う為にやってきたのだ。


 シェリルにとって、これは意外な事だった。そう願うなら、なぜ面識を持たないようにしていたのか。面識のある方がやり易いだろうに。

 だがその答えは、アンドレアルフスの話の続きにあった。

 面識があると、肩入れしている女だと他者に勘違いされる恐れがある。だから敢えて、アンドレアルフスの“気まぐれ”で助けて欲しいとロネヴェは望んだのだと言う。


 事実、シェリルの知らぬ間にアンドレアルフスが彼女を助けた事があったらしい。彼女はそれらしい事が過去にあったか思い出そうとしたが、ダメだった。

 どうやら、かなりさり気なく助けてもらっていたようだ。

「アレはロネヴェの核を持つくらい、変わり者だったからな。

 あ、俺があんたを助けた事はロネヴェには伝えたし、今更あんたに教えても意味のない事だから言わないよ」


 シェリルの疑問に満ちた表情にそう付け加えた。シェリルの質問に全て答えていくのは面倒だと言う。

 なのに、今までのあらましをわざわざ説明している。その姿勢は気まぐれな悪魔を象徴しているかのようだった。




 この街は元々アンドレアルフスが拠点としているだけあって、平和だった。


 大きな力を持つ者が居座る。


 それだけでも魔界からの下手な干渉は減る。だが、ロネヴェが現れた事でその平衡が崩れてしまった。

 悪魔一人が街を支配しているならよくある話で済むが、名持ち悪魔二人が一つの街に居る。それは天界には看過できない事態だ。

 天界とのいざこざを避けている現在の魔界にとって、それは良い事ではない。


 そういう訳で、新参者である方のロネヴェを魔界へ戻そうという動きが活発になったのだという。シェリルは全く魔界の事情など知らなかった。

 知らされなかったし、気にならないようにロネヴェが仕向けていたのだろう。


 ロネヴェは、シェリルが思っているよりもずっと思慮深く、気を使い、様々なものから彼女を守ってきていたのだ。

 これ程の愛を受けておきながら、自分は何を返せていたのだろうか。明らかになっていく隠された愛に、シェリルは絶望を感じた。

 ここまで愛してくれる者なんて、そうそういないだろう。そんな貴重な存在を、シェリルは失ったのだ。


「あんたは悪くないよ。

 悪魔にそう仕向けられたら、人間なんてみんなそうなるんだ」


 シェリルの表情が堅くなってきた事に気が付いたアンドレアルフスが慰めるように言った。

 そう言われて、すぐに気持ちが変わる程の軽い事ではない。ゆるく彼女は首を横に振った。

 だが、この悪魔が言う事は確かだった。

2019.6.2 誤字修正

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