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贖う者  作者: 魚野れん
第十五章 エブロージャの召喚術士
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召喚術士の誠意

 水の入ったゴーレム達はこの場にいる街の人間、一人につき一世帯と前提し、一世帯につき一体となるように移動していく。余ったゴーレムにはアンドロマリウスがメモを貼り付けた蓋を被せていった。


 これは、この場にいない人の家に向かう用である。この場にいる人間とその家族だけが困っている訳ではない。


「ごめんなさい。簡単に調べたけど、すぐに解決できるような簡単なものではなかったの。

 取り急ぎ、可能なだけの水気を集めたわ。

 原因を確認して対応するから、それまでこの水で耐えてほしい。

 今、水は無尽蔵にあるわけではない。無駄遣いだけはしないで」


 シェリルの声に、人々は口を閉じた。今、たった一つの命綱は目の前にいる召喚術士なのだと分かっているのだ。

 だが、すぐに解決すると思っていたらしい一部の人間は恨めしそうに睨んでいる。あまり良くない兆候だった。


 肉体が疲労すると精神も疲労する。理性や冷静さが失われていく原因になる。シェリルは人々の様子を見て、目に力を入れた。


「もちろん、する人はいないと思うけど水の取り合いもなしよ。

 マリウスに作らせた瓶だから、滅多な事じゃ割れないし、何かあれば私達も分かる。

 ちゃんと街の人々に行き渡るようにするから、自分の家族の分だと思って大切にしてね。

 協力して、乗り越えましょう」


 シェリルは一人一人の手を握りながら、全員に向けて話をした。全員が全員、完全に納得しているとは思わなかった。

 だが、こうして親身に動こうと、誠意を見せる事が大切である事をシェリルは充分に理解していた。


 自分の働きが相手にとって満たされるものではなかった場合、その経過が評価を左右させる要因となる可能性がある。

 誠意のない対応などで心証を悪くするよりは、多少やりすぎかもしれないと自分で思う程度に対応しておいた方が良い。


 演劇の舞台に乗っている俳優と同じような事だ。彼らは少しばかりオーバーに表現するが、観客はそれが普通であるように見える。

 逆に普通の表現をすれば、観客に大根役者と言われてしまうくらいである。


 人に伝えたい、印象付けたい事に関しては大げさな方が分かってもらえるのである。

 シェリルはそうして、“召喚術士の信頼度”を底上げするのだった。




 人々が家へと帰っていった後、二人は塔を閉じて街へと繰り出した。あちこちを見て回り、水気以外に異変がないかを見て回る。

 地面は掘らなかった。街の人間が無作為で掘って検証済みだからである。


 余計な手間は省き、足りない情報を集める事で早く原因を突き止めるつもりだった。

 そうして街を見て回って分かった事は、水気が地中に足りない事以外、問題が起きていなかったという事であった。


 水があるという声はなく、足りないという声だけが耳に入る。

 だが、この状況である。水があったとしても、簡単に口には出しにくいだろう。


 周りからの妬みなどを買いやすいし、何より襲われる可能性だって少なくはない。事実を口に出すリスクはあれど、口に出さないリスクはないのだ。

 気持ちは十分に分かる。水があるといっても、どれくらいの余裕があるのかも分からない。そんな状況で配る余裕がある人間など、余程人が良いか、周囲が絶望しているかのどちらかだろう。


 それに、シェリルが水を配布している事は周知の事実である。街を回っている間に、何人にも礼の言葉をかけられた。

 シェリルは原因を見つけ出すからもう少し辛抱してくれと個々に言葉をかけ、励ましたりした。


 一旦街の外へと出て、視界に広がる砂漠を見つめながらシェリルは口を開いた。


「地上に原因はないようね」

「……地下か、砂漠か」

 そんな彼女の呟きに、アンドロマリウスが眉をひそめる。


「どちらにしろ、厄介な事に変わりはないわ」

「普段と違う点がないか視てみるとしよう」


 アンドロマリウスはそう言って大地に額を押し付けた。

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